「私の親友を抱いて」と妻は言った
2020年5月13日
オトナ文庫
著:雑賀匡
画:NOSA
駅前から少し離れた一角に歓楽街がある。
いまは夜の営業に向けて準備をしている最中なのか、バーやスナックの店員が店の前を掃除しているくらいで、ほとんど人の往来はなかった。
そんな場所を裕也は希海と一緒に通り抜ける。
目的としているラブホテルは、その繁華街の奥にあった。
「ここでいいかな?」
いくつか立ち並んでいるホテルのひとつを示す。
結婚するまで禁欲を強いられていた裕也は、この手の施設を使ったことがない。どれがよいかなど分からず、適当に近くにあった小綺麗そうな建物を選んだ。
「どこでもいいよ」
答える希海の声はわずかに固い。
緊張しているのか、歓楽街を歩いているときから口数が減っていた。これから生まれて初めての経験をしようというのだから、当然と言えば当然だろう。
「なにか希望があれば聞くよ。それともシティホテルのほうがよかったかな」
最初が猥雑なラブホテルというのは嫌かもしれない。
ふと雑誌で読んだ、女性の「初体験したい場所」という記事を思い出す。
さすがに海の見える豪華なスイートルーム──などというのは現実的ではないけれど、それなりの希望なら叶えてやるつもりだった。
「ううん、ここでいいよ」
「でも」
「神永くんが気を遣ってくれるのは嬉しいけど、わたしはそこまで『女の子』じゃないからね。本当にどこでもいいの」
「……そうか」
夢見がちな少女ではないと言いたいのだろう。
「じゃあ、ここにするか」
「うん」
希海は頷いて見せたものの、立ち止まったまま動こうとはしなかった。
裕也が何歩か足を進めても固まったままだ。
「霧島?」
「う、うん……分かってる」
彼女は困ったように笑いながら、少し強くなった陽射しに目を細めた。
こんな昼間からラブホテルへ入ることを躊躇しているのか。あるいは、いざという段階になって恐怖に駆られてしまったのかもしれない。
「ねえ、神永くん」
希海はそっと手を差し出してきた。
自ら足を踏み入れるのではなく、強引に連れて入って欲しいということらしい。
べつに強要されて来たわけではない。本人が望んだことであるはずなのに、最後の最後で言いわけが必要なのは、複雑な女心故なのだろうか。
「ああ……」
裕也は差し出された手を握ってホテル内へと入った。
太陽が眩しかった外とは対照的に、館内は全体的に薄暗く──ロビーはガランとして、フロントらしき場所もなかった。
正面に室内の写真が提示されている大きなパネルがあるだけだ。
そういえば、こういう造りだったな。
雑誌やテレビから得た知識でしかないが、通常のホテルとはシステムが違うことを思い出した裕也は、希海の手を引いてパネルの前に立った。
二十室ほどある部屋の写真のうち、半分ほどの明かりが消えている。
使用中ということなのだろう。
こんな昼間の平日から、ラブホテルを使用しているカップルがこんなにもたくさんいるのだと思うと、なんだか不思議な感じだった。
こいつらはいったい何者なんだろう。
仕事はどうした──と、自分を棚に上げて思ってしまう。
残っている部屋を順番に眺めながら尋ねる。
「……どこがいい?」
「どこでもいいよ。どれも似たような部屋だし」
「そうだな」
小さな声で囁く希海に頷き返し、裕也は最上階である四階の隅を選んだ。
パネルの下にあるボタンを押す。
自動販売機のように出てきたカギを手にエレベーターへ乗った。
昇降機の音が小さく響く中、希海が寄りそうように身体を密着させてくる。肘に彼女の大きな乳房が当たると、胸がドキドキと高鳴ってきた。
彼女も同じなのだろうか。
チラリと視線を向けると、希海はわずかに頬を上気させていた。
繋いだままの手にじわりと汗が滲んでくる。
やがて四階に到着した。
開いた扉の正面が選んだ部屋だった。
カギを使ってドアを開けると、室内は意外に広かった。
入り口の近くにはソファセットがあり、大型のテレビが据えられている。
右手には浴室へと続くフロストガラスのドア。その横にある小さな棚には、電気ポットや湯飲みなどのティーセットが設置されていた。
想像していたほど淫靡な感じはせず、ごく普通のシティホテルのような感じだ。
だが、部屋の中央にはキングサイズのベッドが置かれている。
ここが一般的なホテルとは違い、セックスをするためだけの場所だということを示しているかのようだった。
そう思うと、急に落ち着かない気分になった。
「なにか飲むか?」
「ううん、いまはいいよ」
「じゃあ……テレビでもつけるか」
「いいよ。それよりも座ったら?」
「あ、ああ」
促された裕也は、ようやく希海の手を放してソファに腰を下ろした。
手のひらにはべっとりと汗をかいていた。
「ごめん、なんだかそわそわしてさ。こういうところにくるのは初めてだから」
「そうなんだ? 優花と使ったりしなかったの?」
「……なかったよ」
そもそも婚前交渉がなかったのだから、ラブホテルなど縁がなかった。
一度どんな場所か見てみたいという気持ちはあったが──まさか、こんなかたちで実現するなどとは夢にも思わなかった。
「おまえのほうが落ち着いてるみたいだな」
ホテルへ入るまではあれほどの緊張を見せていたというのに、いざ室内へ足を踏み入れてしまうと、逆に冷静になったかのようだ。
「そうでもないよ? すごくドキドキしてるし」
希海はそう言って笑ったが、その表情はわずかに引きつっている。
まあ……それはそうだろうな。
これから初体験をしようというのだから、緊張していないわけがない。
「でも、相手が神永くんだからかな。不安はもちろんあるけど、変な恐怖心みたいなものはなくて……ちょっと安心してる」
「そっか」
「わたし、シャワー浴びてきていいかな?」
「ああ」
頷いてみせると、希海は浴室へと歩いて行った。
そのうしろ姿がドアの向こうへ消えると同時に、裕也はソファの背もたれに身体を預け、全身から力を抜くように大きく溜め息を吐いた。
緊張しているのは俺のほうだな。
裕也は苦笑しながら大きなベッドに視線を向けた。
いまからここでセックスをする。しかも相手は高校時代からの友人だ。
そう考えただけで頭に血が上りそうだった。
こんな状態で、上手く彼女を抱けるだろうかと不安になる。まるでこちらが童貞であり、初めての経験を控えて緊張している感じだ。
浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
いま、希海がすぐ近くで裸体を晒しているのかと思うと、胸の鼓動がさらに激しくなり、股間が熱く疼き始めていく。
妻以外の女性を相手に、ちゃんと勃つだろうか。
そんな不安もあったけれど、どうやら心配する必要はなさそうだった。裕也の男としての部分はしっかりと反応している。
少し落ち着こうとネクタイを外したときのことだ。
上着のポケットに入れておいたスマートフォンが着信音を鳴らした。
「うわっ!?」
「どうしたの?」
思わず上げてしまった声に気付いたのか、浴室から希海が問いかけてきた。
「あ、いや……なんでもない」
返事をしながらスマートフォンを手に取る。
画面に表示されていたのは、優花からメッセージが届いたという通知だった。
どうしてこんなときに──と内容を確認する。
『希海と会えた?』
送られてきたのは短いメッセージ。
どう返事をしたものかと考えた末に、現在の状況をそのまま伝えることにした。
『いま、ラブホに来ている』
『そう』
『希海はシャワーを浴びてる。本当にいいんだな?』
改めて確認する。
仕事中であるにもかかわらず、わざわざメッセージを送ってきたのは、優花もことの成り行きを気にしているからだろう。
あるいはいまさらのように後悔しているのかもしれない。
もし、ここで彼女が中止を伝えてきたら──。
少し残念ではあるが、素直に従うつもりだった。今回のことは優花が許可したからこそであって、自ら進んで不倫をする気はない。
覚悟を決めている希海には悪いけれど、このままホテルを出る。
これが引き返す最後のチャンスだ。
そう思いながら返信を待つ。
だが、一分近く経ってから送られてきたのは、
『構わない。あの子に男を経験させてあげて』
という承諾のメッセージだった。
「……そうだよな」
一度決めたことを覆す優花ではない。
分かっていたことではあるが、改めて妻の意志の強さを──いや、頑なさを実感させられた気分だった。
『分かった』
最後に短いメッセージを送る。
既読マークがついたが、返信はなかった。
「どうかしたの?」
浴室から出てきた希海が怪訝そうに声をかけてくる。
振り返ると、そこには全裸の上からバスタオルだけを巻いた彼女の姿。
裕也は反射的に目を逸らしてしまう。
「いや……優花からスマホに連絡がきてさ」
「彼女、なんて?」
「男を経験させてやれって」
「ふふ、優花らしい言い方だね」
希海はクスクスと笑った。
「いつもそうだけど、あいつって上から目線なんだよな」
「昔からそうだったじゃない。なんでもできて頼りになるぶん、女王様的な気質があって、逆らうことを許さないというか……」
「霧島にもそんな感じだったのか?」
希海と優花は中学時代からの友人だと聞いていた。
常にクラスの中心にいた優花に対して、地味で目立たない存在だった希海。
一見するとあまり接点がないように思えるけれど、どこか馬が合うのか、ふたりは現在も変わらぬつき合いを続けている。
だが、その力関係までは、男である裕也からでは窺い知れなかった。
「まあ……わたしは慣れてるからね。それに神永くんだって、彼女のそういうところに惹かれたからこそ、結婚までしたんでしょう?」
「……そうだな」
学生時代の優花が凜々しく見えたことは確かだ。
少し堅苦しいところはあるが、何事にもブレず真っ直ぐな性格を好ましいと思った。
自分にはないものを持っている──と。
それだけに今回のことには首を傾げざるを得ない。
倫理観や彼女の道徳的な観念からしても、不貞行為を強要するのは妙なのである。
改めてそんなことを考えていた裕也は、目の前に立つ希海がジッと自分を見つめていることに気付き、慌てて思考を中断した。
いまは妻の思惑を探っている場合ではない。
「じゃあ、俺もシャワーを……」
「あ、いいよ。神永くんはそのままで」
「いや……でも、少し汗を掻いてるから」
「ひとりで待っていたくないの」
希海はそう言って、纏っていたバスタオルをはらりと床に落とした。
「……っ!?」
露わになった裸体に思わず視線が釘付けとなる。
華奢な肩。細い身体に不釣り合いなほど大きな胸は、少しも垂れることなく美しい形を保っており──その頂点には桜色の乳首が浮かんでいた。
キュッと締まったウエストから、張りのあるヒップに繋がる艶めかしい曲線。
透けるような白い肌と、股間を覆う薄めのヘアが対照的だ。
服の上からでは想像もつかないほどの見事な裸体を見た瞬間、裕也は頭の中でカチンと欲望のスイッチが入ったことを自覚した。
「どう……かな? わたしの身体」
「すごくきれいだよ」
素直に頷くしかない。
初めて見る希海の全裸は、とても女性らしくて──本当にきれいだった。
「優花と比べてどう?」
「あいつはその……胸はあるけど、全体的に細身だから」
「わたしのほうが肥ってるって言いたい?」
「そ、そんなことはない。とても抱き心地がよさそうで──」
思わず漏らした言葉に慌てて口を塞ぐ。
そんな裕也が滑稽だったのか、希海はまたクスクスと笑った。
「じゃあ、女として見てもらえてるってことだね」
「もちろんだ」
「……ホントに?」
上目遣いになった彼女は、躊躇いつつも裕也の股間へと手を伸ばしてきた。
「なっ!?」
「あ、ホントだ……大きくなってる」
「おまえ、意外と大胆なんだな」
「だからね……これでもすごく緊張してるんだよ。自分から積極的なことしないと、頭がどうにかなっちゃいそうなくらいに」
「なら、これから先は、もっとおかしくなるかもな」
裕也は両手で希海を抱きしめた。
小柄な彼女はすっぽりと腕の中に収まり、全身に柔らかな感触が伝わってくる。
気持ちが徐々に高まると同時に、それまで感じていた戸惑いや躊躇いが消えてしまい、この身体を抱けるという興奮だけに包まれていく。
「誰かに抱きしめられるのって……初めて」
「これだけでは済まないけどな」
「うん。神永くんの……大きくなってるもんね」
希海はズボンの上から遠慮がちに膨らみを撫で続けた。
そのたびに軽微な刺激が股間を走り、勃起が増して痛いくらいになっている。
「直接触ってみるか?」
「え、でも……」
「男を知りたいんだろ?」
ファスナーを引き下ろして、勃起したペニスを取り出す。
「ぁ……」
希海が小さく息を呑んだ。
友人相手に恥部を晒すのは、妙に気恥ずかしい感じがした。
けれど、困惑する希海に「教えてやる」という高揚感が勝り、強引に彼女の手を掴むと、ドクドクと脈動する陰茎へ導いていった。
「ほら、握ってみろよ」
「……すごく硬くて、熱い」
希海は男性器の形を確かめるかのように、小さく震える指で亀頭から根元までをなぞり上げ──最後にキュッと肉棒を握りしめてきた。
ゾクゾクとした快感が背すじを走り抜けていく。
優花は軽く触れる程度のことしかしないため、こんなにもじっくりとペニスを撫でまわされたのは初めてだった。
「……これが、わたしの中に入るんだね」
「準備ができたらな」
裕也は希海を抱きしめたまま、彼女の乳房へと手を伸ばした。
鷲掴むように手のひら全体で触れていくと、ふわりとした柔らかな感触が伝わってくる。弾力のある優花の乳房と違い、どこまでも指が沈んでいく感じだ。
けれど張りがないわけではなく、ギュッと握ると指を跳ね返す圧力を感じた。
心地よい感触に、つい夢中になってしまう。
「ん……あ、待って……」
「悪い、痛かったか?」
「ううん。そうじゃなくて」
希海は間近から裕也を見つめ、わずかに瞳を潤ませながら懇願する。
「最初はキスから始めて欲しいの」
「……そうだな」
男女が繋がる場合は、唇からというのが定番だろう。
愛し合う恋人同士──ではないけれど、セックスという行為が粘膜の接触であるならば、まずは一番初めに行うべきなのかもしれない。
「もしかして、優花に止められてる?」
「ダメだとは言われていない」
「じゃあ、して」
「やっぱり、キスも初めてか?」
「うん。この歳になって恥ずかしい話だけど……誰ともしたことがない」
「だったら、これも初体験だな」
裕也がそう言うと、希海は軽く顎を持ち上げながら目を閉じた。
人目を惹くほどではないけれど、彼女の容貌は美しく整っており──こうして間近から眺めると、思わず見とれてしまうほどだ。
これだけの美人に、どうして恋人ができないのか不思議だった。
全体的に地味な印象のせいか。
それとも、本人の言葉通り、男に対して苦手意識があるせいだろうか。
いずれにしても、ここで異性を知ることによって、彼女が大きく変わってしまいそうな気がした。魅力的な女性として、大輪の花を咲かせそうな予感がする。
これは贔屓目だろうか──と裕也は内心で苦笑しながら、希海の艶やかな唇へと顔を寄せていった。彼女の吐息がかすかに頬へと当たる。
くすぐったさを感じながら唇を重ねた。
「んうっ」
途端、希海が小さく呻き声を上げた。
初めてのキスがよほど衝撃的だったのか、全身を強張らせている。
その初々しい反応を愉しみながら、裕也は何度か啄むようなキスを繰り返した後、彼女の震える唇を押し開いて、ゆっくりと舌を差し込んでいった。
セックスを快く思っていない優花も、愛情表現のひとつとしてキスだけは拒絶しない。 だが、それは軽く唇を触れさせる程度のものでしかなく、舌を絡ませる濃厚なキスには嫌悪感を示して、いくら誘っても応じようとはしなかった。
そんな妻とは対照的に、
「んむっ……はぁ……んんん……ッ」
希海はすぐさま舌を突き出し、侵入してきた裕也の舌を受け止めた。
唾液が混じり合い──甘い味がした。あるいは高校時代の彼女との思い出が加味されて、そんな気がするという錯覚なのかもしれない。
だが、たとえ幻想であっても、希海とのキスは気持ちよかった。
小さく震える彼女の肩を掴んで執拗に舌を絡めていく。口腔内に唾液があふれ、唇の端からこぼれ落ちても、裕也はキスを続けていった。
「はぁ……んっ……」
やがて息苦しくなったのか、希海が軽く首を振るようにしてゆっくりと唇を離した。
唇と唇との間に唾液の糸が引く。
目の前には、頬を真っ赤にした彼女の顔があった。
「……すごいね、キスって」
「そうか?」
「頭の芯が痺れちゃって……なにも考えられなくなる」
「それだけ没頭してるってことだろう」
「なんか、すごくキスが好きだって言われてる気がする」
「そうじゃないのか?」
「ううん……好き、だと思う」
希海はそう言うと、今度は自ら顔を寄せて唇を重ねてきた。
口全体を覆いながら積極的に舌を絡め、あふれてきた唾液をすくい取ると、喉を鳴らして呑み込んでいく。強く吸われて舌が痺れるほどだ。
大胆な彼女のキスに興奮が増していく。
裕也は彼女を抱きしめたまま、再び乳房に手を伸ばしていった。
先ほどより高ぶっているせいなのか、その肌は熱くなっており──膨らみの頂点にある乳首は硬く尖って手のひらを刺激してくる。
「んっ……やっぱり、なんか変な感じ」
「なにが?」
「だって、誰にも触られたことなかったから……」
「そうだろうな。じゃあ、こっちはもっと感じるかも」
もう片手を希海の股間へと這わせていく。
「ひぁ……」
震える太股をなぞりながら、薄いヘアの奥へと指を伸ばす。柔らかな肉の重なりに軽く触れるだけで、彼女はビクビクと全身を震わせた。
陰裂をゆっくりと優しく撫で上げる。
すでに愛液があふれ始めていたのか、何度か指を動かすだけで湿り気が強くなった。
「もう濡れてるな」
「あ……恥ずかしいこと……言わないで」
「愛撫されたら濡れるのは普通のことだろう」
裕也はそう言いながら、指を軽く割れ目へと侵入させた。
途端、クチュッと小さな水音がすると同時に、膣内から大量の愛液がこぼれ出してきた。熱い蜜は指を伝い、手のひらを経由して床へとこぼれ落ちる。
「……すごいな」
優花の濡れ方とは比較にならないほどだ。
ただでさえ愛蜜の量が少ない妻は、前戯を嫌うためいつも挿入に苦労する。
その点、希海は十分すぎるくらいに男を受け入れる準備をしていた。
陰裂はぴったりと閉じ合わさったままで、当然ながら優花よりも固い印象だったけれど、これだけ濡れていれば問題はないだろう。
裕也は花びらを解すように指を動かしていった。
「ちょ、ちょっと待って……なんだかゾクゾクとして……」
「心配するな。すぐに慣れる」
「でも……あっ、んんっ!」
希海は羞恥に耳まで赤くしている。
気持ちよさと驚きを同時に味わっているせいか、彼女の顔は戸惑いつつも蕩け始めているという感じだった。
「んんっ……い、いやらしい指の動き……」
「いやらしいことをしているからな」
裕也は小さく笑いながら、親指以外の四本の指を使って陰部を撫で上げた。
中指だけを軽く陰裂に沈め──抜き取るという動作を繰り返す。
滴る愛液の量が増え、希海はガクガクと膝を震わせ始めた。
「あ、ああ……もう立ってられなくなる……」
「じゃあ、そろそろ移動するか」
希海の肩を抱いて、傍にあるベッドへと誘う。
ふらつく彼女を端に座らせると、裕也は自らワイシャツのボタンを外し、着ていた服をすべて脱ぎ捨てていった。
「……結構、筋肉質なんだね」
全裸になった裕也を、希海は熱っぽい表情でジッと見つめてくる。
「高校時代はひょろりとした印象だったのに」
「大学時代、筋トレにハマったことがあるんだ」
構内に学生なら無料で使用できるトレーニングルームがあると友人から教えられ、講義の間に通っていた時期があった。
特に目的があったわけではないが、華奢な身体付きよりはいいだろうと思ったのだ。
あまり筋肉質な身体付きは好きじゃない──という優花の言葉でやめることにしたが、以前よりは男らしくなったのではないかと自負していた。
「胸なんかすごく硬そうだね」
「そうかな」
「ちょっと触ってみてもいい?」
「ああ、いいぞ」
裕也が承知すると、希海はそっと胸に手を伸ばしてくる。
「すごい……やっぱり男の人の身体って、女とは全然違うんだ」
「そりゃ、そうだろう……って、おい」
胸板をなぞっていた指が不意に乳首に触れてきた。思わずビクリと反応してしまうと、彼女は面白そうにクスクスと笑う。
「男の人も感じるんだね」
「まあ……多少はな」
「ふふ、なんだか愉しい」
小さな乳輪をなぞるように愛撫されると、さすがにゾクゾクとしてくる。誰かに触られると変な感じがする──という希海の言葉がいまさらのように実感できた。
優花はこんな愛撫などしない。しようともしない。
好きに遊ばせていると、調子に乗った希海は顔を寄せて乳首へ舌を這わせ始めた。熱い舌で転がされ、心地よい刺激が伝わってくる。
そのたびに股間が小さく疼いた。
「おまえって……本当に大胆な奴だな」
「イメージが違った?」
「だって、初めてなんだろう?」
「うん、初めて。でも……わたしだって、男の人の身体に興味はあるんだよ。いやらしい想像をしたことがないわけじゃないから」
自慰だってしたことあるし──と、彼女は小さな声でカミングアウトした。
「そうなのか?」
「あ、ほんのちょっとだけだよ」
「たとえば、どんなことをしたんだ?」
「えっと……胸やアソコを触ってみたりとか……」
希海は恥ずかしそうな顔をして呟くように言った。
性的な行為に関して、かなり好奇心が強いようだ。それとも、経験がない故に興味が増しているだけなのだろうか。
「こんなふうにか?」
冗談めかして彼女の乳首を指でつまみ上げた。
「あ、んっ!」
指腹で転がしながら軽く上下させると、それに合わせてたっぷりとしたボリュームを持つ乳房がゆらゆらと揺れた。
「そ、そんなに強くしてない……ッ」
「このほうが感じるだろう?」
「そうだけど……んんっ、あ、胸の先っぽがビリビリして……ッ」
刺激を加えるたび、希海はビクビクと肩を震わせた。
その切なそうな表情を眺めていると、次第に興奮が増していく。優花を相手に機械的な前戯をするときとは大違いだ。
希海の言葉通り、如実な反応を見るのは愉しかった。
「舐めるともっと感じるかな」
「あ……んっ!?」
彼女をベッドへ押し倒し、大きな胸をすくい上げるようにして揉む。柔らかい乳房が手のひらに張りついてくるようだった。
裕也はその乳肉をギュッと絞り、先端にある乳首を口に含んだ。
「んああっ……んっ、んうっ!」
「気持ちいいか?」
「う、うん」
小さく何度も頷いてみせる希海が可愛くて、乳首を吸い上げながら舌で弾く。
そのたびに、彼女は悩ましげに細い身体をよじらせる。シーツの派手に乱れていく様が、そのまま快楽の強さを表しているようだった。
「んっ、ああッ! な、なんだか不思議な感覚……ゾクゾクして、切なくなる感じだよ。吸われると身体の奥がキュッとなって……」
「じゃあ、こっちはどうだ?」
希海の股間へと手を伸ばし、陰部全体を包むようにして覆う。先ほどよりも濡れているため、手のひらは一瞬にしてベトベトの状態になった。
軽く陰裂に指を差し挿れると、スッと第一関節まで沈み込んだ。
「んっ……ちょっと痛いかも」
「でも、もっと太いのが入るんだぞ」
「そう言われると……やっぱり怖い気もする」
「まあ、それもすぐに慣れるみたいだけどな」
優花の場合、二回目からほとんど痛みを訴えなくなった。
とはいえ、やはり最初は痛いだろうし、膣内に異物を受け入れるのは不安だろう。
こればかりはどうしようもない。
もっと経験を積んでいれば、負担の少ない方法を見つけられたかもしれないが、残念なことに裕也が知っている女は優花だけだ。
できるだけ優しくするしかない。
「んっ……あっ、はぁ……んんっ……ッ」
膣内を軽く擦るたび、希海は唇から熱っぽい吐息を漏らした。
縋るように裕也の首へ両手をまわし、ぴったりと身体を密着させているのは、少しでも離れると不安になってしまうからだろう。
彼女の大きな乳房が、胸板に当たってぐにゃりと形を変えた。
その柔らかな感触と──愛撫のたびにビクビクと跳ね上がる女体に興奮を煽られ、股間のペニスは限界まで高まりつつある。
裕也は陰裂を押し広げるように弄り、希海の首すじにキスの雨を降らせていく。
すでに、妻に言われて仕方なく──という気持ちはなくなっていた。
頭に血が上り、腕の中にある身体を貪りたくなる。
希海が欲しいと心の底から思った。
「もうそろそろ……いいかな?」
赤く染まった耳に向けて囁きかける。
荒い呼吸を繰り返していた彼女は、裕也の言葉に「いいよ」と小さく頷いてみせた。
「本当なら、もっと時間をかけて濡らしたほうがいいんだろうけど」
「どうやって?」
「そうだな……舐める、とか」
「い、嫌だよ。そんな恥ずかしいこと」
希海は首を横に振ってクンニを拒絶した。
大胆なように思えても、やはり初めての体験とあって、羞恥心は捨てきれないようだ。
「いいから、もうシて……」
「分かった」
裕也は改めて彼女をベッドの中央へ誘うと、サイドテーブルの上に置かれてあった避妊具へと手を伸ばした。本当ならこんなものを着けずに、生で希海を味わいたかったけれど、妻がいる身としてはそういうわけにもいかない。
手早くゴムを装着すると、改めて希海に覆い被さっていく。
「んあっ……あ、熱い……」
ペニスを陰部に押しつけると、彼女はブルッと身体を震わせた。
「おまえのここも熱くなってる」
軽く腰を動かして陰裂をなぞる。柔らかな肉の感触が伝わってくると同時に、ねっとりとした愛液が亀頭へと絡みついてきた。
「はぁ……はぁ……」
挿入の予感に身体を強張らせる希海。
初めてセックスを経験するのだから当然だが、裕也も優花以外の女性と繋がったことはなく、しかも昔から知っている相手となると緊張せざるを得ない。
ペニスに指を添え、肉を馴染ませるよう慎重に陰裂への往復を続けた。
クチュクチュと室内に響き渡る水音が徐々に大きくなる。
「は、早く……」
希海が顔を真っ赤にして懇願した。
「チンポが欲しいのか?」
「そんなに、いやらしくないもん」
希海は顔を引きつらせながらも笑みを浮かべる。
「神永くんって……結構、意地悪な人だったんだね」
「冗談だよ」
唇を尖らせる希海に、裕也はクスッと笑い返した。
おかげで互いの緊張が少し解れた。
リラックスをさせるのは経験者である自分の役目のはずなのに、彼女に気を遣わせてしまったことを少し情けなく思う。
「なあ、もう一度キスしていいか」
「いいよ……キスは好きだから」
可愛く頷いてみせる希海に顔を寄せ、軽く何度もキスを繰り返していく。
唇で唇を愛撫するかのように。
だが、キスが好きだ──と公言する希海はそれだけでは物足りなくなったのか、裕也の頭を抱えて、もっと激しい口付けを望んでくる。
裕也は弾力のある彼女の唇を吸い上げると、ねじ込むように舌を差し入れ──。
同時に、腰を押し出していった。
「んうっ……んっ、んんんんっ!」
熱い膣肉に包まれるペニスを、じわじわと時間をかけて挿入していく。
きつく締め上げてくる淫肉を押し広げる。
かつての優花を思い出させる、処女特有の引きつった感触。さすがに破瓜を愉しむ余裕はなかったが、希海と繋がりつつあるという事実が裕也を興奮させた。
「あ……んぅ……ううっ」
「痛いか?」
この先に処女膜がある。
そう分かった時点で動きを止め、唇を離して彼女の顔を覗き込んだ。
「い、痛いけど……まだ大丈夫だから」
目尻に涙を浮かべながらも、希海は健気に頷いてみせる。
少しズレてしまったメガネを直してやりながら、裕也は確認するように問いかけた。
「続けていいのか?」
「うん。そのかわり……キスしたままで」
希海は改めて裕也の頭を抱えると、引き寄せるようにして自らキスをした。
その拍子にペニスが進み、亀頭がなにかを突き破る感触が伝わってくる。
途端、彼女が全身を強張らせ、重なった唇が小刻みに震えた。それでも裕也はさらに腰を突き出して、自らの分身を根元まで沈み込ませていった。
先端が最奥にまで到達すると、希海は全身の力を抜くように大きく息を吐く。
「はぁああ……は、入ったの?」
「ああ、見てみるか?」
「いいよ、そんなの」
彼女は恥ずかしそうにブンブンと首を横に振る。
「は、入ってるのは、もう十分すぎるくらいに分かってるから」
「そうか」
その言い方が面白くて、つい笑ってしまう。
「でも……なんだか夢みたい。神永くんと、こんなことする日がくるなんて」
「それは俺も同じだ」
希海に対して抱いていた想いは、優花とつき合うようになって以来、甘酸っぱい思い出としてずっと心の奥底へしまい込んでいた。
もうその可能性はなくなったのだと諦めていた。
だから彼女の言葉通り──本当に夢のようだった。
「ね、動いていいよ?」
希海が熱に浮かされた声で囁く。
「動かないと気持ちよくならないんでしょう?」
「でも、まだ辛いだろう」
「大丈夫だよ。確かに痛いけど……想像していたほどじゃないから」
「本当か?」
結合部に視線を落とすと、あまり血が出ている様子はなかった。
優花のときはシーツが赤く染まるほどだったが、破瓜の傷みや出血の状況は人によって異なるものらしい。
「もしかして、オナニーで処女膜が破れ……いてっ」
腰をつねられてしまった。
「意地悪ばかり言わないで」
「わ、悪かったよ」
少しふざけすぎたと反省しつつ、裕也はゆっくりと抽挿を開始した。
希海の処女膣はさすがに固く──肉壁がぴっちりとペニスを包み込んできて、出し入れするのにも苦労するほどだ。
挿入したときと同じくらいの速度で、じわじわと引き抜いていく。
わずかな鮮血を纏った避妊具付きの肉棒が姿を現し、亀頭が見えそうになる。
「あ……抜けちゃう」
「心配するな。またすぐに挿れるから」
結合が解ける寸前、再び腰を突き出してペニスを埋めていく。
少し軋むような感じがしたけれど、愛液の量が増えつつあるためか、最初の挿入よりはスムーズに繋がることができた。
「んぅ……硬いのが、お腹の中を往復してるのが分かる……」
「どんな感じだ?」
「まだ分からないよ。痛いことは痛いし」
まあ……そうだろうなと思う。
最初からいきなり快楽を覚えるのは幻想だと分かっている。
どんなことでも慣れがあるように、セックスで女性が悦びを得られるようになるのは、何度か結合を繰り返した後だ。
できることなら希海に快感を与えてやりたい。
わずかにでも喜悦の瞬間を経験させてやりたかった。
彼女と交わるのはこれが最後で、もう二度とないかもしれないのだから。
けれど、裕也は最初から感じさせる技術など持ち合わせていない。いまは負担を与えないよう、じっくりとした抽挿を繰り返すしかなかった。
「んっ……ふぅ……はぁ……」
ペニスを出し入れするたびに、希海は熱い吐息を漏らし続ける。
初めてのセックスを愉しむ余裕などなく、胎内で動き続ける男性器を受け止めるだけで精いっぱいといった様子だ。
「苦しくないか?」
「平気……んんっ、わたしのことより……神永くんはどう? 気持ちいい?」
「ああ、気持ちいいよ」
辛そうな彼女には申しわけないが、裕也はこの上ない快楽を得ていた。
膣内の締めつけはかなり強烈だったが、動くたびに膣肉がペニスに馴染んでくるかのようで、心地よい刺激をもたらしてくる。
「そうなんだ……よかった……」
希海が安堵したように呟いた。
「よくはないだろう。これはおまえのためにしていることで……」
「いいんだよ。わたしは男の人を経験できただけで……神永くんと繋がることができただけで満足だから。あとはあなたが気持ちよくなってくれればいいの」
「……霧島」
嬉しそうに微笑む彼女を見つめていると、肉体的な心地よさより精神的な興奮が高まり、あっという間に射精衝動が込み上げてきた。
この続きは、5月29日発売のオトナ文庫『「私の親友を抱いて」と妻は言った』でお楽しみください!!
(C)TASUKU SAIKA/NOSA
いまは夜の営業に向けて準備をしている最中なのか、バーやスナックの店員が店の前を掃除しているくらいで、ほとんど人の往来はなかった。
そんな場所を裕也は希海と一緒に通り抜ける。
目的としているラブホテルは、その繁華街の奥にあった。
「ここでいいかな?」
いくつか立ち並んでいるホテルのひとつを示す。
結婚するまで禁欲を強いられていた裕也は、この手の施設を使ったことがない。どれがよいかなど分からず、適当に近くにあった小綺麗そうな建物を選んだ。
「どこでもいいよ」
答える希海の声はわずかに固い。
緊張しているのか、歓楽街を歩いているときから口数が減っていた。これから生まれて初めての経験をしようというのだから、当然と言えば当然だろう。
「なにか希望があれば聞くよ。それともシティホテルのほうがよかったかな」
最初が猥雑なラブホテルというのは嫌かもしれない。
ふと雑誌で読んだ、女性の「初体験したい場所」という記事を思い出す。
さすがに海の見える豪華なスイートルーム──などというのは現実的ではないけれど、それなりの希望なら叶えてやるつもりだった。
「ううん、ここでいいよ」
「でも」
「神永くんが気を遣ってくれるのは嬉しいけど、わたしはそこまで『女の子』じゃないからね。本当にどこでもいいの」
「……そうか」
夢見がちな少女ではないと言いたいのだろう。
「じゃあ、ここにするか」
「うん」
希海は頷いて見せたものの、立ち止まったまま動こうとはしなかった。
裕也が何歩か足を進めても固まったままだ。
「霧島?」
「う、うん……分かってる」
彼女は困ったように笑いながら、少し強くなった陽射しに目を細めた。
こんな昼間からラブホテルへ入ることを躊躇しているのか。あるいは、いざという段階になって恐怖に駆られてしまったのかもしれない。
「ねえ、神永くん」
希海はそっと手を差し出してきた。
自ら足を踏み入れるのではなく、強引に連れて入って欲しいということらしい。
べつに強要されて来たわけではない。本人が望んだことであるはずなのに、最後の最後で言いわけが必要なのは、複雑な女心故なのだろうか。
「ああ……」
裕也は差し出された手を握ってホテル内へと入った。
太陽が眩しかった外とは対照的に、館内は全体的に薄暗く──ロビーはガランとして、フロントらしき場所もなかった。
正面に室内の写真が提示されている大きなパネルがあるだけだ。
そういえば、こういう造りだったな。
雑誌やテレビから得た知識でしかないが、通常のホテルとはシステムが違うことを思い出した裕也は、希海の手を引いてパネルの前に立った。
二十室ほどある部屋の写真のうち、半分ほどの明かりが消えている。
使用中ということなのだろう。
こんな昼間の平日から、ラブホテルを使用しているカップルがこんなにもたくさんいるのだと思うと、なんだか不思議な感じだった。
こいつらはいったい何者なんだろう。
仕事はどうした──と、自分を棚に上げて思ってしまう。
残っている部屋を順番に眺めながら尋ねる。
「……どこがいい?」
「どこでもいいよ。どれも似たような部屋だし」
「そうだな」
小さな声で囁く希海に頷き返し、裕也は最上階である四階の隅を選んだ。
パネルの下にあるボタンを押す。
自動販売機のように出てきたカギを手にエレベーターへ乗った。
昇降機の音が小さく響く中、希海が寄りそうように身体を密着させてくる。肘に彼女の大きな乳房が当たると、胸がドキドキと高鳴ってきた。
彼女も同じなのだろうか。
チラリと視線を向けると、希海はわずかに頬を上気させていた。
繋いだままの手にじわりと汗が滲んでくる。
やがて四階に到着した。
開いた扉の正面が選んだ部屋だった。
カギを使ってドアを開けると、室内は意外に広かった。
入り口の近くにはソファセットがあり、大型のテレビが据えられている。
右手には浴室へと続くフロストガラスのドア。その横にある小さな棚には、電気ポットや湯飲みなどのティーセットが設置されていた。
想像していたほど淫靡な感じはせず、ごく普通のシティホテルのような感じだ。
だが、部屋の中央にはキングサイズのベッドが置かれている。
ここが一般的なホテルとは違い、セックスをするためだけの場所だということを示しているかのようだった。
そう思うと、急に落ち着かない気分になった。
「なにか飲むか?」
「ううん、いまはいいよ」
「じゃあ……テレビでもつけるか」
「いいよ。それよりも座ったら?」
「あ、ああ」
促された裕也は、ようやく希海の手を放してソファに腰を下ろした。
手のひらにはべっとりと汗をかいていた。
「ごめん、なんだかそわそわしてさ。こういうところにくるのは初めてだから」
「そうなんだ? 優花と使ったりしなかったの?」
「……なかったよ」
そもそも婚前交渉がなかったのだから、ラブホテルなど縁がなかった。
一度どんな場所か見てみたいという気持ちはあったが──まさか、こんなかたちで実現するなどとは夢にも思わなかった。
「おまえのほうが落ち着いてるみたいだな」
ホテルへ入るまではあれほどの緊張を見せていたというのに、いざ室内へ足を踏み入れてしまうと、逆に冷静になったかのようだ。
「そうでもないよ? すごくドキドキしてるし」
希海はそう言って笑ったが、その表情はわずかに引きつっている。
まあ……それはそうだろうな。
これから初体験をしようというのだから、緊張していないわけがない。
「でも、相手が神永くんだからかな。不安はもちろんあるけど、変な恐怖心みたいなものはなくて……ちょっと安心してる」
「そっか」
「わたし、シャワー浴びてきていいかな?」
「ああ」
頷いてみせると、希海は浴室へと歩いて行った。
そのうしろ姿がドアの向こうへ消えると同時に、裕也はソファの背もたれに身体を預け、全身から力を抜くように大きく溜め息を吐いた。
緊張しているのは俺のほうだな。
裕也は苦笑しながら大きなベッドに視線を向けた。
いまからここでセックスをする。しかも相手は高校時代からの友人だ。
そう考えただけで頭に血が上りそうだった。
こんな状態で、上手く彼女を抱けるだろうかと不安になる。まるでこちらが童貞であり、初めての経験を控えて緊張している感じだ。
浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
いま、希海がすぐ近くで裸体を晒しているのかと思うと、胸の鼓動がさらに激しくなり、股間が熱く疼き始めていく。
妻以外の女性を相手に、ちゃんと勃つだろうか。
そんな不安もあったけれど、どうやら心配する必要はなさそうだった。裕也の男としての部分はしっかりと反応している。
少し落ち着こうとネクタイを外したときのことだ。
上着のポケットに入れておいたスマートフォンが着信音を鳴らした。
「うわっ!?」
「どうしたの?」
思わず上げてしまった声に気付いたのか、浴室から希海が問いかけてきた。
「あ、いや……なんでもない」
返事をしながらスマートフォンを手に取る。
画面に表示されていたのは、優花からメッセージが届いたという通知だった。
どうしてこんなときに──と内容を確認する。
『希海と会えた?』
送られてきたのは短いメッセージ。
どう返事をしたものかと考えた末に、現在の状況をそのまま伝えることにした。
『いま、ラブホに来ている』
『そう』
『希海はシャワーを浴びてる。本当にいいんだな?』
改めて確認する。
仕事中であるにもかかわらず、わざわざメッセージを送ってきたのは、優花もことの成り行きを気にしているからだろう。
あるいはいまさらのように後悔しているのかもしれない。
もし、ここで彼女が中止を伝えてきたら──。
少し残念ではあるが、素直に従うつもりだった。今回のことは優花が許可したからこそであって、自ら進んで不倫をする気はない。
覚悟を決めている希海には悪いけれど、このままホテルを出る。
これが引き返す最後のチャンスだ。
そう思いながら返信を待つ。
だが、一分近く経ってから送られてきたのは、
『構わない。あの子に男を経験させてあげて』
という承諾のメッセージだった。
「……そうだよな」
一度決めたことを覆す優花ではない。
分かっていたことではあるが、改めて妻の意志の強さを──いや、頑なさを実感させられた気分だった。
『分かった』
最後に短いメッセージを送る。
既読マークがついたが、返信はなかった。
「どうかしたの?」
浴室から出てきた希海が怪訝そうに声をかけてくる。
振り返ると、そこには全裸の上からバスタオルだけを巻いた彼女の姿。
裕也は反射的に目を逸らしてしまう。
「いや……優花からスマホに連絡がきてさ」
「彼女、なんて?」
「男を経験させてやれって」
「ふふ、優花らしい言い方だね」
希海はクスクスと笑った。
「いつもそうだけど、あいつって上から目線なんだよな」
「昔からそうだったじゃない。なんでもできて頼りになるぶん、女王様的な気質があって、逆らうことを許さないというか……」
「霧島にもそんな感じだったのか?」
希海と優花は中学時代からの友人だと聞いていた。
常にクラスの中心にいた優花に対して、地味で目立たない存在だった希海。
一見するとあまり接点がないように思えるけれど、どこか馬が合うのか、ふたりは現在も変わらぬつき合いを続けている。
だが、その力関係までは、男である裕也からでは窺い知れなかった。
「まあ……わたしは慣れてるからね。それに神永くんだって、彼女のそういうところに惹かれたからこそ、結婚までしたんでしょう?」
「……そうだな」
学生時代の優花が凜々しく見えたことは確かだ。
少し堅苦しいところはあるが、何事にもブレず真っ直ぐな性格を好ましいと思った。
自分にはないものを持っている──と。
それだけに今回のことには首を傾げざるを得ない。
倫理観や彼女の道徳的な観念からしても、不貞行為を強要するのは妙なのである。
改めてそんなことを考えていた裕也は、目の前に立つ希海がジッと自分を見つめていることに気付き、慌てて思考を中断した。
いまは妻の思惑を探っている場合ではない。
「じゃあ、俺もシャワーを……」
「あ、いいよ。神永くんはそのままで」
「いや……でも、少し汗を掻いてるから」
「ひとりで待っていたくないの」
希海はそう言って、纏っていたバスタオルをはらりと床に落とした。
「……っ!?」
露わになった裸体に思わず視線が釘付けとなる。
華奢な肩。細い身体に不釣り合いなほど大きな胸は、少しも垂れることなく美しい形を保っており──その頂点には桜色の乳首が浮かんでいた。
キュッと締まったウエストから、張りのあるヒップに繋がる艶めかしい曲線。
透けるような白い肌と、股間を覆う薄めのヘアが対照的だ。
服の上からでは想像もつかないほどの見事な裸体を見た瞬間、裕也は頭の中でカチンと欲望のスイッチが入ったことを自覚した。
「どう……かな? わたしの身体」
「すごくきれいだよ」
素直に頷くしかない。
初めて見る希海の全裸は、とても女性らしくて──本当にきれいだった。
「優花と比べてどう?」
「あいつはその……胸はあるけど、全体的に細身だから」
「わたしのほうが肥ってるって言いたい?」
「そ、そんなことはない。とても抱き心地がよさそうで──」
思わず漏らした言葉に慌てて口を塞ぐ。
そんな裕也が滑稽だったのか、希海はまたクスクスと笑った。
「じゃあ、女として見てもらえてるってことだね」
「もちろんだ」
「……ホントに?」
上目遣いになった彼女は、躊躇いつつも裕也の股間へと手を伸ばしてきた。
「なっ!?」
「あ、ホントだ……大きくなってる」
「おまえ、意外と大胆なんだな」
「だからね……これでもすごく緊張してるんだよ。自分から積極的なことしないと、頭がどうにかなっちゃいそうなくらいに」
「なら、これから先は、もっとおかしくなるかもな」
裕也は両手で希海を抱きしめた。
小柄な彼女はすっぽりと腕の中に収まり、全身に柔らかな感触が伝わってくる。
気持ちが徐々に高まると同時に、それまで感じていた戸惑いや躊躇いが消えてしまい、この身体を抱けるという興奮だけに包まれていく。
「誰かに抱きしめられるのって……初めて」
「これだけでは済まないけどな」
「うん。神永くんの……大きくなってるもんね」
希海はズボンの上から遠慮がちに膨らみを撫で続けた。
そのたびに軽微な刺激が股間を走り、勃起が増して痛いくらいになっている。
「直接触ってみるか?」
「え、でも……」
「男を知りたいんだろ?」
ファスナーを引き下ろして、勃起したペニスを取り出す。
「ぁ……」
希海が小さく息を呑んだ。
友人相手に恥部を晒すのは、妙に気恥ずかしい感じがした。
けれど、困惑する希海に「教えてやる」という高揚感が勝り、強引に彼女の手を掴むと、ドクドクと脈動する陰茎へ導いていった。
「ほら、握ってみろよ」
「……すごく硬くて、熱い」
希海は男性器の形を確かめるかのように、小さく震える指で亀頭から根元までをなぞり上げ──最後にキュッと肉棒を握りしめてきた。
ゾクゾクとした快感が背すじを走り抜けていく。
優花は軽く触れる程度のことしかしないため、こんなにもじっくりとペニスを撫でまわされたのは初めてだった。
「……これが、わたしの中に入るんだね」
「準備ができたらな」
裕也は希海を抱きしめたまま、彼女の乳房へと手を伸ばした。
鷲掴むように手のひら全体で触れていくと、ふわりとした柔らかな感触が伝わってくる。弾力のある優花の乳房と違い、どこまでも指が沈んでいく感じだ。
けれど張りがないわけではなく、ギュッと握ると指を跳ね返す圧力を感じた。
心地よい感触に、つい夢中になってしまう。
「ん……あ、待って……」
「悪い、痛かったか?」
「ううん。そうじゃなくて」
希海は間近から裕也を見つめ、わずかに瞳を潤ませながら懇願する。
「最初はキスから始めて欲しいの」
「……そうだな」
男女が繋がる場合は、唇からというのが定番だろう。
愛し合う恋人同士──ではないけれど、セックスという行為が粘膜の接触であるならば、まずは一番初めに行うべきなのかもしれない。
「もしかして、優花に止められてる?」
「ダメだとは言われていない」
「じゃあ、して」
「やっぱり、キスも初めてか?」
「うん。この歳になって恥ずかしい話だけど……誰ともしたことがない」
「だったら、これも初体験だな」
裕也がそう言うと、希海は軽く顎を持ち上げながら目を閉じた。
人目を惹くほどではないけれど、彼女の容貌は美しく整っており──こうして間近から眺めると、思わず見とれてしまうほどだ。
これだけの美人に、どうして恋人ができないのか不思議だった。
全体的に地味な印象のせいか。
それとも、本人の言葉通り、男に対して苦手意識があるせいだろうか。
いずれにしても、ここで異性を知ることによって、彼女が大きく変わってしまいそうな気がした。魅力的な女性として、大輪の花を咲かせそうな予感がする。
これは贔屓目だろうか──と裕也は内心で苦笑しながら、希海の艶やかな唇へと顔を寄せていった。彼女の吐息がかすかに頬へと当たる。
くすぐったさを感じながら唇を重ねた。
「んうっ」
途端、希海が小さく呻き声を上げた。
初めてのキスがよほど衝撃的だったのか、全身を強張らせている。
その初々しい反応を愉しみながら、裕也は何度か啄むようなキスを繰り返した後、彼女の震える唇を押し開いて、ゆっくりと舌を差し込んでいった。
セックスを快く思っていない優花も、愛情表現のひとつとしてキスだけは拒絶しない。 だが、それは軽く唇を触れさせる程度のものでしかなく、舌を絡ませる濃厚なキスには嫌悪感を示して、いくら誘っても応じようとはしなかった。
そんな妻とは対照的に、
「んむっ……はぁ……んんん……ッ」
希海はすぐさま舌を突き出し、侵入してきた裕也の舌を受け止めた。
唾液が混じり合い──甘い味がした。あるいは高校時代の彼女との思い出が加味されて、そんな気がするという錯覚なのかもしれない。
だが、たとえ幻想であっても、希海とのキスは気持ちよかった。
小さく震える彼女の肩を掴んで執拗に舌を絡めていく。口腔内に唾液があふれ、唇の端からこぼれ落ちても、裕也はキスを続けていった。
「はぁ……んっ……」
やがて息苦しくなったのか、希海が軽く首を振るようにしてゆっくりと唇を離した。
唇と唇との間に唾液の糸が引く。
目の前には、頬を真っ赤にした彼女の顔があった。
「……すごいね、キスって」
「そうか?」
「頭の芯が痺れちゃって……なにも考えられなくなる」
「それだけ没頭してるってことだろう」
「なんか、すごくキスが好きだって言われてる気がする」
「そうじゃないのか?」
「ううん……好き、だと思う」
希海はそう言うと、今度は自ら顔を寄せて唇を重ねてきた。
口全体を覆いながら積極的に舌を絡め、あふれてきた唾液をすくい取ると、喉を鳴らして呑み込んでいく。強く吸われて舌が痺れるほどだ。
大胆な彼女のキスに興奮が増していく。
裕也は彼女を抱きしめたまま、再び乳房に手を伸ばしていった。
先ほどより高ぶっているせいなのか、その肌は熱くなっており──膨らみの頂点にある乳首は硬く尖って手のひらを刺激してくる。
「んっ……やっぱり、なんか変な感じ」
「なにが?」
「だって、誰にも触られたことなかったから……」
「そうだろうな。じゃあ、こっちはもっと感じるかも」
もう片手を希海の股間へと這わせていく。
「ひぁ……」
震える太股をなぞりながら、薄いヘアの奥へと指を伸ばす。柔らかな肉の重なりに軽く触れるだけで、彼女はビクビクと全身を震わせた。
陰裂をゆっくりと優しく撫で上げる。
すでに愛液があふれ始めていたのか、何度か指を動かすだけで湿り気が強くなった。
「もう濡れてるな」
「あ……恥ずかしいこと……言わないで」
「愛撫されたら濡れるのは普通のことだろう」
裕也はそう言いながら、指を軽く割れ目へと侵入させた。
途端、クチュッと小さな水音がすると同時に、膣内から大量の愛液がこぼれ出してきた。熱い蜜は指を伝い、手のひらを経由して床へとこぼれ落ちる。
「……すごいな」
優花の濡れ方とは比較にならないほどだ。
ただでさえ愛蜜の量が少ない妻は、前戯を嫌うためいつも挿入に苦労する。
その点、希海は十分すぎるくらいに男を受け入れる準備をしていた。
陰裂はぴったりと閉じ合わさったままで、当然ながら優花よりも固い印象だったけれど、これだけ濡れていれば問題はないだろう。
裕也は花びらを解すように指を動かしていった。
「ちょ、ちょっと待って……なんだかゾクゾクとして……」
「心配するな。すぐに慣れる」
「でも……あっ、んんっ!」
希海は羞恥に耳まで赤くしている。
気持ちよさと驚きを同時に味わっているせいか、彼女の顔は戸惑いつつも蕩け始めているという感じだった。
「んんっ……い、いやらしい指の動き……」
「いやらしいことをしているからな」
裕也は小さく笑いながら、親指以外の四本の指を使って陰部を撫で上げた。
中指だけを軽く陰裂に沈め──抜き取るという動作を繰り返す。
滴る愛液の量が増え、希海はガクガクと膝を震わせ始めた。
「あ、ああ……もう立ってられなくなる……」
「じゃあ、そろそろ移動するか」
希海の肩を抱いて、傍にあるベッドへと誘う。
ふらつく彼女を端に座らせると、裕也は自らワイシャツのボタンを外し、着ていた服をすべて脱ぎ捨てていった。
「……結構、筋肉質なんだね」
全裸になった裕也を、希海は熱っぽい表情でジッと見つめてくる。
「高校時代はひょろりとした印象だったのに」
「大学時代、筋トレにハマったことがあるんだ」
構内に学生なら無料で使用できるトレーニングルームがあると友人から教えられ、講義の間に通っていた時期があった。
特に目的があったわけではないが、華奢な身体付きよりはいいだろうと思ったのだ。
あまり筋肉質な身体付きは好きじゃない──という優花の言葉でやめることにしたが、以前よりは男らしくなったのではないかと自負していた。
「胸なんかすごく硬そうだね」
「そうかな」
「ちょっと触ってみてもいい?」
「ああ、いいぞ」
裕也が承知すると、希海はそっと胸に手を伸ばしてくる。
「すごい……やっぱり男の人の身体って、女とは全然違うんだ」
「そりゃ、そうだろう……って、おい」
胸板をなぞっていた指が不意に乳首に触れてきた。思わずビクリと反応してしまうと、彼女は面白そうにクスクスと笑う。
「男の人も感じるんだね」
「まあ……多少はな」
「ふふ、なんだか愉しい」
小さな乳輪をなぞるように愛撫されると、さすがにゾクゾクとしてくる。誰かに触られると変な感じがする──という希海の言葉がいまさらのように実感できた。
優花はこんな愛撫などしない。しようともしない。
好きに遊ばせていると、調子に乗った希海は顔を寄せて乳首へ舌を這わせ始めた。熱い舌で転がされ、心地よい刺激が伝わってくる。
そのたびに股間が小さく疼いた。
「おまえって……本当に大胆な奴だな」
「イメージが違った?」
「だって、初めてなんだろう?」
「うん、初めて。でも……わたしだって、男の人の身体に興味はあるんだよ。いやらしい想像をしたことがないわけじゃないから」
自慰だってしたことあるし──と、彼女は小さな声でカミングアウトした。
「そうなのか?」
「あ、ほんのちょっとだけだよ」
「たとえば、どんなことをしたんだ?」
「えっと……胸やアソコを触ってみたりとか……」
希海は恥ずかしそうな顔をして呟くように言った。
性的な行為に関して、かなり好奇心が強いようだ。それとも、経験がない故に興味が増しているだけなのだろうか。
「こんなふうにか?」
冗談めかして彼女の乳首を指でつまみ上げた。
「あ、んっ!」
指腹で転がしながら軽く上下させると、それに合わせてたっぷりとしたボリュームを持つ乳房がゆらゆらと揺れた。
「そ、そんなに強くしてない……ッ」
「このほうが感じるだろう?」
「そうだけど……んんっ、あ、胸の先っぽがビリビリして……ッ」
刺激を加えるたび、希海はビクビクと肩を震わせた。
その切なそうな表情を眺めていると、次第に興奮が増していく。優花を相手に機械的な前戯をするときとは大違いだ。
希海の言葉通り、如実な反応を見るのは愉しかった。
「舐めるともっと感じるかな」
「あ……んっ!?」
彼女をベッドへ押し倒し、大きな胸をすくい上げるようにして揉む。柔らかい乳房が手のひらに張りついてくるようだった。
裕也はその乳肉をギュッと絞り、先端にある乳首を口に含んだ。
「んああっ……んっ、んうっ!」
「気持ちいいか?」
「う、うん」
小さく何度も頷いてみせる希海が可愛くて、乳首を吸い上げながら舌で弾く。
そのたびに、彼女は悩ましげに細い身体をよじらせる。シーツの派手に乱れていく様が、そのまま快楽の強さを表しているようだった。
「んっ、ああッ! な、なんだか不思議な感覚……ゾクゾクして、切なくなる感じだよ。吸われると身体の奥がキュッとなって……」
「じゃあ、こっちはどうだ?」
希海の股間へと手を伸ばし、陰部全体を包むようにして覆う。先ほどよりも濡れているため、手のひらは一瞬にしてベトベトの状態になった。
軽く陰裂に指を差し挿れると、スッと第一関節まで沈み込んだ。
「んっ……ちょっと痛いかも」
「でも、もっと太いのが入るんだぞ」
「そう言われると……やっぱり怖い気もする」
「まあ、それもすぐに慣れるみたいだけどな」
優花の場合、二回目からほとんど痛みを訴えなくなった。
とはいえ、やはり最初は痛いだろうし、膣内に異物を受け入れるのは不安だろう。
こればかりはどうしようもない。
もっと経験を積んでいれば、負担の少ない方法を見つけられたかもしれないが、残念なことに裕也が知っている女は優花だけだ。
できるだけ優しくするしかない。
「んっ……あっ、はぁ……んんっ……ッ」
膣内を軽く擦るたび、希海は唇から熱っぽい吐息を漏らした。
縋るように裕也の首へ両手をまわし、ぴったりと身体を密着させているのは、少しでも離れると不安になってしまうからだろう。
彼女の大きな乳房が、胸板に当たってぐにゃりと形を変えた。
その柔らかな感触と──愛撫のたびにビクビクと跳ね上がる女体に興奮を煽られ、股間のペニスは限界まで高まりつつある。
裕也は陰裂を押し広げるように弄り、希海の首すじにキスの雨を降らせていく。
すでに、妻に言われて仕方なく──という気持ちはなくなっていた。
頭に血が上り、腕の中にある身体を貪りたくなる。
希海が欲しいと心の底から思った。
「もうそろそろ……いいかな?」
赤く染まった耳に向けて囁きかける。
荒い呼吸を繰り返していた彼女は、裕也の言葉に「いいよ」と小さく頷いてみせた。
「本当なら、もっと時間をかけて濡らしたほうがいいんだろうけど」
「どうやって?」
「そうだな……舐める、とか」
「い、嫌だよ。そんな恥ずかしいこと」
希海は首を横に振ってクンニを拒絶した。
大胆なように思えても、やはり初めての体験とあって、羞恥心は捨てきれないようだ。
「いいから、もうシて……」
「分かった」
裕也は改めて彼女をベッドの中央へ誘うと、サイドテーブルの上に置かれてあった避妊具へと手を伸ばした。本当ならこんなものを着けずに、生で希海を味わいたかったけれど、妻がいる身としてはそういうわけにもいかない。
手早くゴムを装着すると、改めて希海に覆い被さっていく。
「んあっ……あ、熱い……」
ペニスを陰部に押しつけると、彼女はブルッと身体を震わせた。
「おまえのここも熱くなってる」
軽く腰を動かして陰裂をなぞる。柔らかな肉の感触が伝わってくると同時に、ねっとりとした愛液が亀頭へと絡みついてきた。
「はぁ……はぁ……」
挿入の予感に身体を強張らせる希海。
初めてセックスを経験するのだから当然だが、裕也も優花以外の女性と繋がったことはなく、しかも昔から知っている相手となると緊張せざるを得ない。
ペニスに指を添え、肉を馴染ませるよう慎重に陰裂への往復を続けた。
クチュクチュと室内に響き渡る水音が徐々に大きくなる。
「は、早く……」
希海が顔を真っ赤にして懇願した。
「チンポが欲しいのか?」
「そんなに、いやらしくないもん」
希海は顔を引きつらせながらも笑みを浮かべる。
「神永くんって……結構、意地悪な人だったんだね」
「冗談だよ」
唇を尖らせる希海に、裕也はクスッと笑い返した。
おかげで互いの緊張が少し解れた。
リラックスをさせるのは経験者である自分の役目のはずなのに、彼女に気を遣わせてしまったことを少し情けなく思う。
「なあ、もう一度キスしていいか」
「いいよ……キスは好きだから」
可愛く頷いてみせる希海に顔を寄せ、軽く何度もキスを繰り返していく。
唇で唇を愛撫するかのように。
だが、キスが好きだ──と公言する希海はそれだけでは物足りなくなったのか、裕也の頭を抱えて、もっと激しい口付けを望んでくる。
裕也は弾力のある彼女の唇を吸い上げると、ねじ込むように舌を差し入れ──。
同時に、腰を押し出していった。
「んうっ……んっ、んんんんっ!」
熱い膣肉に包まれるペニスを、じわじわと時間をかけて挿入していく。
きつく締め上げてくる淫肉を押し広げる。
かつての優花を思い出させる、処女特有の引きつった感触。さすがに破瓜を愉しむ余裕はなかったが、希海と繋がりつつあるという事実が裕也を興奮させた。
「あ……んぅ……ううっ」
「痛いか?」
この先に処女膜がある。
そう分かった時点で動きを止め、唇を離して彼女の顔を覗き込んだ。
「い、痛いけど……まだ大丈夫だから」
目尻に涙を浮かべながらも、希海は健気に頷いてみせる。
少しズレてしまったメガネを直してやりながら、裕也は確認するように問いかけた。
「続けていいのか?」
「うん。そのかわり……キスしたままで」
希海は改めて裕也の頭を抱えると、引き寄せるようにして自らキスをした。
その拍子にペニスが進み、亀頭がなにかを突き破る感触が伝わってくる。
途端、彼女が全身を強張らせ、重なった唇が小刻みに震えた。それでも裕也はさらに腰を突き出して、自らの分身を根元まで沈み込ませていった。
先端が最奥にまで到達すると、希海は全身の力を抜くように大きく息を吐く。
「はぁああ……は、入ったの?」
「ああ、見てみるか?」
「いいよ、そんなの」
彼女は恥ずかしそうにブンブンと首を横に振る。
「は、入ってるのは、もう十分すぎるくらいに分かってるから」
「そうか」
その言い方が面白くて、つい笑ってしまう。
「でも……なんだか夢みたい。神永くんと、こんなことする日がくるなんて」
「それは俺も同じだ」
希海に対して抱いていた想いは、優花とつき合うようになって以来、甘酸っぱい思い出としてずっと心の奥底へしまい込んでいた。
もうその可能性はなくなったのだと諦めていた。
だから彼女の言葉通り──本当に夢のようだった。
「ね、動いていいよ?」
希海が熱に浮かされた声で囁く。
「動かないと気持ちよくならないんでしょう?」
「でも、まだ辛いだろう」
「大丈夫だよ。確かに痛いけど……想像していたほどじゃないから」
「本当か?」
結合部に視線を落とすと、あまり血が出ている様子はなかった。
優花のときはシーツが赤く染まるほどだったが、破瓜の傷みや出血の状況は人によって異なるものらしい。
「もしかして、オナニーで処女膜が破れ……いてっ」
腰をつねられてしまった。
「意地悪ばかり言わないで」
「わ、悪かったよ」
少しふざけすぎたと反省しつつ、裕也はゆっくりと抽挿を開始した。
希海の処女膣はさすがに固く──肉壁がぴっちりとペニスを包み込んできて、出し入れするのにも苦労するほどだ。
挿入したときと同じくらいの速度で、じわじわと引き抜いていく。
わずかな鮮血を纏った避妊具付きの肉棒が姿を現し、亀頭が見えそうになる。
「あ……抜けちゃう」
「心配するな。またすぐに挿れるから」
結合が解ける寸前、再び腰を突き出してペニスを埋めていく。
少し軋むような感じがしたけれど、愛液の量が増えつつあるためか、最初の挿入よりはスムーズに繋がることができた。
「んぅ……硬いのが、お腹の中を往復してるのが分かる……」
「どんな感じだ?」
「まだ分からないよ。痛いことは痛いし」
まあ……そうだろうなと思う。
最初からいきなり快楽を覚えるのは幻想だと分かっている。
どんなことでも慣れがあるように、セックスで女性が悦びを得られるようになるのは、何度か結合を繰り返した後だ。
できることなら希海に快感を与えてやりたい。
わずかにでも喜悦の瞬間を経験させてやりたかった。
彼女と交わるのはこれが最後で、もう二度とないかもしれないのだから。
けれど、裕也は最初から感じさせる技術など持ち合わせていない。いまは負担を与えないよう、じっくりとした抽挿を繰り返すしかなかった。
「んっ……ふぅ……はぁ……」
ペニスを出し入れするたびに、希海は熱い吐息を漏らし続ける。
初めてのセックスを愉しむ余裕などなく、胎内で動き続ける男性器を受け止めるだけで精いっぱいといった様子だ。
「苦しくないか?」
「平気……んんっ、わたしのことより……神永くんはどう? 気持ちいい?」
「ああ、気持ちいいよ」
辛そうな彼女には申しわけないが、裕也はこの上ない快楽を得ていた。
膣内の締めつけはかなり強烈だったが、動くたびに膣肉がペニスに馴染んでくるかのようで、心地よい刺激をもたらしてくる。
「そうなんだ……よかった……」
希海が安堵したように呟いた。
「よくはないだろう。これはおまえのためにしていることで……」
「いいんだよ。わたしは男の人を経験できただけで……神永くんと繋がることができただけで満足だから。あとはあなたが気持ちよくなってくれればいいの」
「……霧島」
嬉しそうに微笑む彼女を見つめていると、肉体的な心地よさより精神的な興奮が高まり、あっという間に射精衝動が込み上げてきた。
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(C)TASUKU SAIKA/NOSA