少子化の影響で SEXが必修になりました。
2018年6月19日
ぷちぱら文庫Creative
著:橘トラ
画:赤木リオ
6月19日発売のオトナ文庫『少子化の影響で SEXが必修になりました。』のお試し版です!
作品情報はこちら
本作の冒頭シーンをお試しでご紹介。
深刻な少子化が叫ばれる昨今、政府は『若者のセックス離れ』を解消する策として、授業に性行為を組み込むことを決めた。
初めての性行為に舞い上がる鷹平だったが…!?
※本ページの挿絵はWEB用に加工しており、製品版とは異なる点がございます。
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本作の冒頭シーンをお試しでご紹介。
深刻な少子化が叫ばれる昨今、政府は『若者のセックス離れ』を解消する策として、授業に性行為を組み込むことを決めた。
初めての性行為に舞い上がる鷹平だったが…!?
※本ページの挿絵はWEB用に加工しており、製品版とは異なる点がございます。
「じゃあ……いいんだよな?」
「う、うむ……私でよければ……こちらこそ、よろしく頼む」
空き教室の隅に敷いた体操マットの上で、森川鷹平は制服姿の女子生徒と向き合ったまま固まっていた。
目の前に正座しているのは成瀬柚子、同級生であり幼馴染だ。剣道少女らしく黒髪をポニーテールにまとめ、整った顔立ちに、つり目がちの視線が上目遣いに彼の様子を窺うように見返してきている。
「その、初めてだから……鷹平に任せるぞ」
「うん。俺も初めてだけど……」
鷹平は緊張にごくりと唾を飲み込む。
こいつとは幼い頃からの付き合いだ。言葉遣いも立ち居振る舞いも変わっていて、男勝りなところもあって、今日までずっと男友達のような関係を続けていた。
しかし今日、自分達はついに、男女としての一線を越えてしまうのだ。
(やっぱ、可愛いよな……こいつ)
こうして改めて向き合ってみると、やはりどぎまぎしてしまう。
今まで男友達として接しながら、何度『女』を感じたことだろう。そんな柚子と男女の関係になると思うと、やはり緊張してしまう。
静かな体育倉庫に気まずい沈黙が訪れた時。
「鷹平……その、早くしないと。時間ないから……」
「わ、悪い。じゃあ、するからな」
ここまで来たらもうやるしかないのだ。そっと柚子の肩を引き寄せ、顔を近づける。
「成瀬……目、閉じて」
「うむ……」
柚子も意図を察したのか、きゅっと目を閉じる。
そして鷹平は、緊張して身を強張らせる柚子の唇に、そっと自らの唇を押しつけた。
「…………んっ」
柚子が微かに声を漏らし、きゅっと袖を握ってくる。
(うわっ、成瀬とキスしちゃってるよ……しかもこいつ、いい匂いするな……)
柚子の唇は想像以上に柔らかく、しかも身体全体から甘い匂いが立ち昇ってくる。
あっという間に鷹平は柚子とのキスに夢中になり、唇を離しては何度も押しつけた。
「んっ……鷹へっ……も、ちょっと……んむっ、ゆっくり……はふっ、んぅっ……」
鷹平のぎこちないキスにも関わらず、柚子はわずかに焦ったような、鼻にかかったような声を上げてキスを受け入れてくれる。
「ちょっ……んむっ、鷹平ってば……んむっ、もうちょっと、ゆっくり……しろっ」
(こいつ、こんな声出すんだ……何か、すごい女の子っぽい声だな……)
いつも男勝りな柚子からは想像もできないような艶っぽい声だ。その反応が一層彼の興奮を煽った。柚子の小さな唇を頬張るように吸いつき、ぷるんとした感触を楽しむ。
「んむぅっ……はぷっ、んふっ……はふっ、ちょっ、待てったらぁっ……んむぅっ」
柚子が何か言おうとしているが、鷹平はもう止まらなかった。さらに口内粘膜を味わおうと、唇を塞いだまま、舌を入れようとした時。
「ん~~~っ! んんんん~~~~っ!」
柚子の手がぽかぽかと背中を叩いているのに気づき、ようやく鷹平は唇を離す。
「……ぷはっ! 落ち着けって言ってるのに! はぁ、はぁ……苦しいだろっ!」
「わ、悪い……その、つい……」
もしかしたら柚子の機嫌を損ねてしまったかもしれない……そうなったらここで終わりだ。鷹平は柚子の反応を緊張して待つ。
「はぁ……はぁ……い、いや、なかなかいいものだな。まさか口づけだけでこんなに……その、こんなに気持ちが盛り上がるとは……」
そして柚子は、はにかむように笑う。
「鷹平としているからかな?」
その言葉に鷹平は身体中が熱くなるような劣情を覚え、思わず柚子を押し倒していた。
「ごめんっ、成瀬……俺、俺っ、もう……」
「あっ、ちょっ……鷹へっ……」
もう止めることが出来なかった。柚子の手首をマットに押さえつけ、口だけでなく、頬、首筋、鎖骨と激しくキスを浴びせていく。
「ひゃっ? 鷹平っ……やめっ……あっ、そんなとこっ……やっ、ひゃんっ……」
鷹平がキスを浴びせるたびに、柚子の身体がふるっ、ふるっ、と反応する。
「成瀬っ、ごめんっ……可愛過ぎてっ、止められないんだけどっ……」
まさかこいつがこんなに可愛いなんて。キスだけでは物足りない。柚子の首筋を音を立てて吸いながら、はだけた胸元に手を伸ばす。
「あっ、こ、こらっ……そっちは、ひゃっ……そんなに吸ったら、痕、出来ちゃっ……」
「成瀬の胸、触らせてっ……ちょっとだけだからっ」
「あぅぅ……ひゃっ? そんなにがっつくなんてっ……あっ、んん……っ、お、お前も……男だったんだなっ……」
鷹平の熱っぽいキスに晒され、柚子の抵抗はあまり強くはない。
勢いに任せ柚子のブラをずり下ろすと、たぽっ、と音を立てるように柚子の乳房が現れた。鷹平は膨らみに躊躇なく手を伸ばし、指を沈み込ませる。
「ふぁっ……ぁぁ、鷹平、胸は……優しくだぞ……っ」
途端に柚子が慌てた声を上げるが、鷹平は構わずにその胸を揉みしだく。
(すげ……成瀬、結構着やせするタイプだったんだな……)
初めて触れる柚子の乳房は想像より大きく、質感もすべすべのもちもちだ。今まで触れたことのないその感触をじっくり味わうように柚子の柔肌を手の平で弄ぶ。
「んぁっ、鷹へっ……こらっ、そんなに激しく揉んだら……ちょっと痛い……もうちょっと、優しくしろ……っ」
「わ、悪い……もうちょっと優しく触る」
いつになく弱々しく懇願するような柚子の声に、鷹平は触り方を変え、膨らみの先端の突起を指で挟んだ。
「きゃぅっ……? 鷹平、そこ……つまんだらっ……」
上ずった声で柚子の背中がびくっ、と跳ねる。
「成瀬もやっぱり……乳首とか気持ちいいんだ?」
柚子の反応に気を良くした鷹平は、何度も柚子の乳首をつまんで指の間で転がす。
「違っ……やんっ……つまむなぁっ! 鷹平……先っぽばっかり、そこは……敏感だからっ……もっと、んくぅっ……」
鷹平が先端を扱くようにつまみ上げるたび、柚子の身体がひくっ、ひくっ、と反応する。口を手で押さえてはいるが、喉の奥から切なげな喘ぎ声が漏れていた。
(やばっ、可愛いな……こいつ)
いつも男勝りな柚子が、こんなに女の子らしく恥ずかしがっている。そんな柚子の姿に、鷹平はさらに大胆になり柚子の下半身に手を伸ばした。
「あっ、ばかっ……そっちは……んむっ?」
柚子が一瞬戸惑ったような声を上げたが、鷹平はキスで口を塞ぎ、パンツの中に手を差し入れる。指先に柔らかい割れ目の肉質を感じた。
「んむっ? っぷは……ひんっ、そこは駄目だって! やめろってば……!」
鷹平の指から逃れるように柚子が腰をくねらせるが、構わずに割れ目に指を差し込む。
「ここ、触っておかないと後で痛いから」
「ばかっ……だからってそんなとこっ……触ったらっ、やめっ……やめろってばぁ! んむっ……鷹へっ、んむぅっ……!」
そんな可愛い声で嫌がられても止まれるわけがない。時折抗議の声を上げる柚子の唇を塞ぎながら、割れ目の中を指先で擦る。柚子の肉裂の中は微かに湿っているだけだったが、粘膜は温かく、柔らかくて、女の子の大事な場所を触っているというだけで鷹平の興奮はどんどん高まっていく。
「あっ、やめっ、そこはっ……もっと優しく触ってくれっ……ばか、こらっ……ひんっ」
鷹平の拙い愛撫にたじろぎながらも、柚子は切羽詰まった声を上げ、時折身体をひくつかせる。
「もうちょっと……もうちょっと触ったら、やめるからっ」
柚子をなだめすかすような言葉をかけながら、鷹平はその割れ目をなで擦る。初めて触る女の子の大事な部分なのだ。止められるわけがなかった。
(えーと、確か……このへん、だよな……?)
柚子の割れ目の中を探り、小さなくぼみを見つけるなり指先をつぷっ、と差し込んだ。
「きゃぅっ!」
柚子の身体がびくん、と跳ねる。
「ひゃっ、やっ……そんなところに……ゆ、指っ……入れるなっ……!」
「でも、ここもちゃんとほぐしておかないと痛いと思うから……触らせてっ」
「うぅっ……わかったっ、わかったから……優しく触ってくれっ……ひんっ」
柚子が自分と同じく性体験がないのをいいことに、鷹平は柚子を言いくるめ、膣内をじっくりと指で味わう。
(女の子の中って、こんなふうになってるんだな)
柚子の膣内は指一本でもきつく、微かな襞がいくつも連なっていて、ここに自分のものを入れるのだと思うだけで下半身が熱くなる。その襞の一部をぷるんと引っかくと。
「きゃぅぅっ……ぅぅっ……!」
柚子が先程とは違う上ずった声を上げ、膣がきゅっと収縮する。
「やっ……鷹平、そこっ……変な声が出るからっ……触らないでくれっ」
「成瀬、もしかして……感じたりする?」
「し、知るかっ……! そんなこと……っ、いいからやめっ……」
柚子の……女の子の反応する場所を見つけ出してしまった。あの柚子が女の反応を見せている。それに興奮した鷹平は執拗に膣襞を指先で引っかく。
「んっ……やっ、あふっ、そこっ……あんまりしつこく触ったらっ……あっ、やっ……何か……んくっ、くんっ……くぅんっ……」
鷹平が膣襞を引っかくたびに柚子の声の調子が変わってくる。同時に、膣内の湿り気が増し、指先にとろとろとしたものが絡みついてきた。
「成瀬、これ、もしかして……濡れてる?」
「あ、当り前だろ……! そこを、んっ……そんなに弄られたらっ……私だって女なんだからっ、濡れるに決まって……あぁっ、だから、擦るなってばぁ……!」
自分の指に反応し、普段聞いたことのない声を上げる柚子の姿に、鷹平は頭の芯がカッと熱くなるような欲情を覚える。今すぐこいつと繋がりたい。このきつく温かい肉穴を、指でなく自分の下半身で味わいたかった。
身体を起こした鷹平は、焦りで手間取りながらズボンのチャックを下ろし、既に硬く張り詰めていた肉棒を引きずり出す。
「成瀬っ、俺、もう入れたいんだけどっ……いいよなっ?」
「えっ? お前、もうそんなに……しかしっ……まだ、心の準備が……」
そそり立つ少年の肉棒を目にし、柚子が先程の決意も忘れたのか、たじろいだように後ずさろうとした時、廊下から聞きなれたチャイムの音が聞こえてきた。
「あ、その……もう次の授業始まるから……次の機会に……」
しかし、鷹平は立ち上がろうとする柚子の肩を押さえつける。
「だから早くしないとっ……成瀬っ、この時間で済ませないと!」
逃げ腰になる柚子を説き伏せようと鷹平は躍起になる。何しろこの時間で行為を終えないと、もうこいつと出来るチャンスはないかもしれないのだ。
「あぅ……何で今日に限ってそんな押しが強いんだ……うぅ……いつもそうなら、私だって……あぅぅ……」
柚子は言葉を探していたが、やがて観念したように頷いた。
「……わかった、じゃあ……よろしく頼む。優しくしてくれよ?」
「あ、ああ、わかってる。痛くしないようにするから……多分」
言いながらも彼はうわの空で制服のポケットからコンドームを取り出す。
ついに、念願の初体験なのだ。いつ、どんな体験になるかいろいろ妄想してきたが、まさかこいつとすることになるなんて……しかも自分達はつき合ってもいないのに。
(これから、成瀬と……するんだよな。いいんだよな?)
夢のようなシチュエーションに胸が一杯になりながらコンドームをつけ始めるが、今までつけたこともないのに加え、気持ちも焦ってしまい、うまくつけられない。
そんな彼の様子に、柚子が恐る恐る声をかける。
「な、なあ……もうちょっと早くしてくれないか? その、覚悟が鈍りそうだ……」
「ちょ、ちょっと待て。今つけるから……えーと、こうやって……」
「まったく。つけ方は授業でやっただろ……ちゃんと予習してこい」
手間取りながら避妊具を装着する鷹平の様子に、柚子は焦れたように熱い溜息を吐き出して待つ。
……そう、彼らの高校ではセックスの実技が必修になったのだ。
第一章
「ようくん、おかえりー、ごはんできてるからねー」
「あ、うん、ただいま」
「えと、おにい……こっちすわって」
「うん、ありがと」
公園の隅に姉と妹が線を引いて作った居間に、鷹平は恐る恐る足を踏み入れる。周りには綺麗に重ねられたお皿や、そこらで汲んできた水道水を入れたコップ。本当は友達とサッカーをしたいのだが、どうせまた姉妹と遊んでいるのでからかわれるだけだろう。
「はい、きょうはハンバーグですよー、たくさんたべてねー」
「う、うん。いただきます……」
姉が土を丸めて作った塊に手を出そうとした時。
「おにい、わたしもつくったの……さらだ」
妹がプレートに乗せた山盛りの雑草を差し出してくる。
「あ、うん。これもたべるな」
鷹平がお皿を受け取って食べる真似をしようとすると。
「だめっ! きょうはおねえちゃんが、おかあさんなんだからっ!」
「おねえちゃん、きのうもおかあさんやったじゃん……わたしもやりたい」
「こ、こらこら……けんかしないで」
姉妹が喧嘩を始め、鷹平は慌てて取りなそうとするが。
「こらー! ようへい! いつまでままごとなんかしてるんだ! ちゃんばらするぞ!」
振り返ると、もう一人の女の子が木の枝を振り回しながらやってきた。そしてずかずかと家に入り込んきて、どかっと座り込む。
「ゆずちゃん! ちゃんとくつぬいでよね!」
「じゃ、ゆずちゃんはわたしのおねえちゃんね」
「ようへいがおとうさんやくなら、わたしがおかあさんだっ! ほら、わたしがめしをよそってやる!」
言ってやってきた女の子が強引に器に土を盛り始める。
「かってなことしないでよ、ゆずちゃん! おねえちゃんがおかあさんなんだからぁ!」
「なにをー! わたしがおかあさんだろ! な? ようへい」
「え……え……? おれはどっちでもいいけど……」
二人がぎゃーぎゃー騒ぎ始め、鷹平はおろおろするばかりだ。気がつくと、妹がそばでいじけて砂を集めていた。
「うぅ……わたしもおかあさんやりたいのに……!」
そして、砂をぶちまけた。
「すずめちゃんのばかー! おねえちゃんちよごさないでよー!」
「なにやってるんだ、すずめっ、わたしがおかあさんなんだぞっ!」
「なんでいつもけんかするんだよ……」
自分の周りで三人の女の子が争いを始めて、しっちゃかめっちゃかになってしまった。その光景に少年は呆然とするばかりだった。
☆ ☆ ☆
「ん……」
目覚まし時計のボタンを叩いた鷹平は、のそのそとベッドから起き上がる。
3月に入ったばかりの朝はまだ寒く、いつもなら布団から出るのも億劫なくらいなのに、今日はアラームが鳴る前に目が覚めてしまった。何だか懐かしい夢を見た気がする。
「…………」
何となく部屋を見回してみるが、どうということはない。
ここにいるのは、森川鷹平、高校2年。ごく普通の高校生らしく、相変わらず冴えない感じだが、今日はそれではちょっと困るのだ。何しろ……。
「……ま、いいか」
結局、それ以上自分に期待することはせず、鷹平は適当に制服を身につけて部屋を出る。
「あ、おはよう。鷹くん。今起こしに行こうと思ってたのに。今日は早いね」
「うん、おはよう。姉ちゃんこそ早いじゃん」
台所には既に制服姿の姉がいて、ぱたぱたと動き回っていた。
森川つぐみ。鷹平の一つ上、同じ高校に通う3年生。背中まで伸びたふわふわの髪の一部をまとめ上げ、少し垂れ目がちの、柔らかな顔立ちの美少女だ。
制服の下に隠れた身体は発育良好過ぎるくらいでブレザーを苦しそうに押し上げ、ストッキングをつけた脚はぱつっ、と音を立てそうなくらいに肉が詰まっている。
そのうえ、成績優秀で高校では生徒会長を務め、生徒の人望も厚い。ほぼパーフェクトな姉と言っていいだろう。それだけならいいのだが。
「鷹くん、今日の授業の準備ちゃんとした? 忘れ物ない? ネクタイ曲がってるよ」
鷹平の回りをぐるぐる回り、髪をなでつけたり、ネクタイを直したり、慌ただしい。
「やめろって、姉ちゃん。俺は大丈夫だからっ!」
「そう? お姉ちゃん、心配なんだけど……」
鷹平に突っぱねられしゅんとなるつぐみ。これが、姉をパーフェクトと言いきれない理由だった。昔からとにかく鷹平に構いたがる。要するにブラコンなのだ。
そんなやり取りをしている時。
「ふぁ……おはよ」
「おはよう、すずめちゃんも早いね。めずらしー」
「ん……まあ、一応」
姉の言葉にもごもごと答えるのは鷹平の一つ下の妹。森川すずめ。
ぼさぼさのウルフカットを明るい色に染め、くりっとした瞳は見ようによっては可愛いのだが、今兄を見る目は警戒心を露わにしている。開いたブラウスの胸元から覗く膨らみは控えめで、脚はすらりと長くスレンダーで、姉とは正反対だが美少女の類と言っていいだろう。
その一方、素行も姉とは対照的に不真面目そのもので、授業はサボるわ、制服を着崩すわ、周囲に苦労をかけっぱなしだ。鷹平も何度も叱っているのだが、なかなか言うことを聞いてくれない。見た目も中身もとにかく生意気盛りなのだ。
「……何じろじろ見てんだよ?」
鷹平を威嚇しながら隣に座るすずめだが、昔は甘ったれのお姉ちゃん子でお兄ちゃん子だったのだ。つぐみと鷹平の姿が見えなくなると、小鳥のようにぴーぴー騒ぎ立てて気を引いては甘えてくるようなやつだったのに。
そんな姉妹と席につき、朝食が始まる。
「……すずめちゃん、今日の準備した?」
「……うん、お姉ちゃんは……そか、授業……保健係だからいいんだよね」
「すずめ……」
「お兄には聞いてない」
「まだ何にも言ってないだろが!」
「はいはい、二人とも早くご飯食べちゃってね」
姉に急かされ、兄妹はむすっと朝食を再開する。これが森川家の一日の風景だった。
親が家を空けがちなこともあって、何でも三人でやってきたのだ。小さい頃はもっと仲が良くて、何でも一緒にやっていた。日々の生活から、おままごとのような遊びまで、数で敵わない鷹平はいつも二人に付き合わされていた。それが成長につれて少しずつ距離が出来てしまったが、今でも三人でがちゃがちゃと騒がしい毎日を送っている。
そしてもう一人、三人の関係にまた別の方向から力を加えてきた人物がいる。
……♪。
玄関のチャイムが鳴り、三人の動きが止まる。時刻はまだ8時前だ。
「あれ? お隣さんかな? 鷹くん、回覧板ちゃんと回した?」
「回したけど……俺が見てくるよ」
口にレタスを詰め込みながら、鷹平が玄関に向かうと……。
「お、おはよう……鷹平、もう起きてたか……」
外に立っていたのは成瀬柚子だった。長い黒髪をポニーテールにまとめ、竹刀袋を肩にかけた姿が凛々しく決まっている。
「あ、成瀬か……どした?」
柚子は近所の剣道教室の娘で、鷹平達の幼馴染だ。鷹平が幼い頃に剣道教室に通っていたのがきっかけで仲良くなり、よく四人で遊んでいた。といっても、男勝りの柚子は鷹平をままごと以外の遊びに連れ出したがり、よく姉妹と喧嘩になっていた。鷹平が剣道を辞めてからは適度な距離が開き、今ではそれなりに仲良くやっているが、当時の姉妹にとっては天敵のようなものだったろう。
そして、鷹平は未だにこの幼馴染との関係を計れずにいた。中学生まではショートヘアで男の子のようなやつだったのに、高校になってからは髪も伸ばし、体型も変わり、どんどん女の子らしくなっていく。それなのに、未だに男友達のような関係が続いているのだ。
「特に用はないんだが、その……たまには一緒に行こうと思ってな……」
「まあ、いいけど。ちょっと待ってろ。姉ちゃん達も呼んでくるから」
「あっ、こ、こらっ……鷹平だけで……」
後ろで柚子が何か言っているのが聞こえたが、鷹平は構わず姉妹を呼びに向かった。
「えへへ、柚子ちゃんと一緒に学校行くの、久しぶりだね」
「うむ。今日は朝練がなくて」
「柚子ちゃん、今日の準備してきた?」
「うむ……私は、その……今朝も湯あみを……」
「そうなんだ……気合い入ってるね」
まだ寒さの残る春先の通学路をのんびりと歩きながら、鷹平は三人の会話をぼんやり聞いていた。昔と同じような懐かしい空気の中、三人の会話はどことなく緊張しているようだが、鷹平はうわの空だ。それもそのはず、何しろ今日は……。
「お兄、エロい顔するのやめてくれない?」
「……はっ? な、何言ってんだ。俺は別に……」
口ではそう言うものの鷹平の顔はまたにやけてしまう。
「ふふっ、しょうがないよ。男の子はみんな楽しみにしてたもんね」
「そ、そうか。やはり鷹平も待ちわびていたのだな……」
「ま、まあな……」
そう、今日は性教育の実技が始まる日。
つまり、今日から授業でクラスの女の子達とセックスが出来るのだ。
日本は現在、少子化がのっぴきならない状態まで来ていた。
晩婚化、出生率の低下、いろいろな要因が重なり、この国の未来が危ぶまれる段階になり、とうとう出生率の上昇が政策の重要課題として進められることになったのが数年前だ。
しかし、育児制度の拡充、出産後の経済的支援など様々な政策をしても一向に出生率は上がらない。条件付きで重婚やきょうだい婚まで認めるという強硬策まで実施したのにほとんど効果がない。そして本格的な調査の末に明らかになったのは、一番の原因が『若者のセックス離れ』ということだった。
本来ならば国として様々な要因を考慮した上で一つずつ解決していくべきなのだろうが、そんな悠長なことをしている時間的余裕はない。『若者のセックス離れ』対策にとうとう国が本腰を入れることになってしまった。
数年の間、いろいろな議論が交わされたが、結局最善の策は、学校生活の中でセックスに慣れさせるのが一番だ、ということになった。しかし、ただ『セックスをしましょう』と教員が促すだけでは劇的な効果は望めない。そこで、学校の授業にセックスを取り入れてしまおう、性教育の実習が『保健体育?』としてカリキュラムを組まれることになった。
かといっていきなりすべての学校でセックスを始めるような無茶は出来ない。テストケースとして全国からいくつかの高校が選ばれることになり、何段階もの選考の末、鷹平達の通う高校が選ばれた。それから数か月、いろいろな準備をした末、とうとう今日からセックスの実習が始まるのだ。
「へへ…………」
通学路を歩く鷹平は、そばに女の子三人がいるにも関わらず、ポケットに突っ込んだコンドームを握りしめ、またにやついてしまう。
浮かれないわけがない。性教育の実習なんて、男子にとって、夢の授業がとうとう現実になるのだ。しかも鷹平にとっては童貞を卒業出来るとあって、期待もなおさらだった。
「なぁ、鷹平、その……私が相手だったらどうする? ちゃんとしてくれるか?」
「え? うーん……その時にならないとわかんないけど、その時は頑張るよ」
柚子の言葉に鷹平は適当に答える。今日のセックスの授業のことで頭がいっぱいで、柚子を気遣う余裕がなかった。
「そうか……うむ、頼もしいぞ」
柚子の安心したような溜息にも気づかず鷹平がまたにやついた時。
「あ~あ、お兄とエッチする人がかわいそ……」
すずめがじとっとした目を向けてきていた。この話題になるとよく見せる、どこか恨みがましげな、それでいて探るような目だ。
「うっせ、授業だからいいんだよ、授業だから。それに遊んでるお前と違って俺達は大変なのっ」
「そ、そんなのお兄に関係ないじゃんっ」
すずめがほんのわずかに傷ついたような表情を見せたが、すぐに顔を背けてしまった。
「こーら、鷹くん、意地悪言っちゃだめでしょ?」
「あ、うん……ごめん」
姉に額を軽く小突かれ、鷹平は思わず謝るが。
「姉ちゃんは保健係だし、今日はやっぱりしないんだよな」
保健係である姉の仕事は、授業のスムーズな進行だ。抽選が公平に行われるよう管理し、男女の人数が合わない時は他のクラスに回して調整したりとやることは多い。そのため授業には参加せず、希望のタイミングで授業を受ければいいことになっている。
「お姉ちゃんのことは気にしないで。みんなが公平にエッチ出来ればいいんだから」
今のところ一歩引いたところにいるものの、そしていつかは姉も誰かとすることになるわけで……。
「…………」
やはり、自分の家族が誰か知らない男と……というようなことは気まずいというか、あまり考えたくない。もちろん鷹平にとってはすずめだって大事な妹だし……心がざわつきかけた時。
「行くぞ、鷹平」
柚子が珍しく……以前のように……鷹平の手を取りぐいぐい引いていく。
「あ、おい……」
我に返った鷹平はわけもわからず柚子に手を引かれるまま高校まで連れられて行った。
そしてとうとう運命の5時間目……。
体育館は集まった生徒たちの期待や緊張で、異様な熱気を放っていた。何しろ彼らにとって初のセックスの授業なのだ。
「鷹くん、ホントに大丈夫? ちゃんと歯磨いた? ティッシュ持った? コンドームは? お姉ちゃんがついていってあげよっか?」
姉がしきりに鷹平にまとわりついてくる。テスト前など、いつもああだこうだと世話を焼きたがるのだが、セックスの授業の前でもこれをやられたら恥ずかしくて仕方ない。
「俺は大丈夫だって! 姉ちゃんは保健係の仕事があるだろっ、もう戻れって」
「そう? 何かあったら呼んでね……?」
心配そうにしながら、つぐみは去り際に柚子になにごとか耳打ちし、とことこと歩いて行った。
「……」
姉に何か吹き込まれたのか、柚子がじっと見つめてくる。
「成瀬、どした?」
鷹平の言葉に柚子がびくっと反応する。どういうわけか顔も赤い。
「い、いや……何でも、それより、すずめは? あいつもこの授業だよな?」
「サボりだろ……ったく」
取り繕うような柚子の問いに鷹平は溜息をつく。この授業は一学年一クラスずつのタテ割なのだ。三人全員が一組だったため、偶然同じ授業を受けることになったのだが、すずめは一回目の授業から早速サボっている。それにしても。
(気まずいよな…………)
姉や妹と一緒にセックスの授業をするのはやはり気まずい。それに、姉や妹が誰か他の男と自分の知らないことをするというのは、どうしても割り切れない。授業だし、仕方ないことなので出来るだけ考えないようにはしているのだが。
その時、ついに授業の開始を告げるチャイムが鳴る。
体育館内が一斉にざわつき、鷹平も一気に現実に引き戻される。
「はーい! 静かにー! 抽選を始めるので出席番号順に並んでくださーい!」
正面に立っている姉がぱんぱんと手を鳴らして生徒達を静かにさせ、並ばせる。
「そ、それでは……後でな……」
「お、おお…………?」
柚子が意味深なことを口にして離れていくが、鷹平はそれどころではない。今からとうとうセックスの実習が始まるのだ。
ルールはそれほど難しくはない。このひと月、毎週三回、授業二コマぶんの時間を使って、抽選でペアを作って学校内の好きな場所でセックスをする。それだけだ。
当然、授業をサボったり、相手が嫌だからといって拒否したりで、規定の回数以上セックスをしなければ単位がもらえない。現在は三月、三年生は卒業出来ないということになり将来に関わる問題だ。唯一、妊娠している者のみ授業が免除されるが、そんな生徒は聞いたことがない。
「じゃあ抽選を始めまーす! 今日は学年ごと、一年生から順に来てくださーい! 余りが出ないようにしてあるから後でも先でも変わらないですよー!」
体育館正面、姉の前にある長机の上には大きな箱が二つあり、上方には手が入るくらいの大きさの穴が空いている。男子用と女子用に分かれていて、それぞれに同じ番号が書かれたカラーボールが入っているのだ。後は簡単、同じ番号を引いた男女がペアをになるだけだ。
「はーい、押さないでね。また次の授業で抽選するから慌てなくていいよー」
公平な抽選が必要であり、不正が起こらないよう管理するのが保健係である姉なのだ。姉が見ている前で皆がボールを取っていく。
(うぅっ……お、俺の番だ……!)
とうとう鷹平の番がやってくる。一体誰とすることになるのだろうか、思い切って箱に手を入れボールを掴む……今、この手の中に初体験の相手がいるかと思うと手が震えた。
「はい、鷹くん、ボール取ったら戻ってね……あっと」
姉の手が鷹平のボールを取り落とし、さっと別のボールを拾い上げる。
「……ごめんね、はい。可愛い子と当たるといいね?」
「あ、うん……」
何やら思わせぶりな姉の言葉に曖昧に答えつつも、鷹平は列に戻る。何か細工したように見えたのだが。そして……。
「はーい、じゃあ同じ番号同士でペアになって並んでくださーい!」
姉の言葉で生徒達がざわざわと動き始める。手を振ったり、番号を口にしたり、男女ともに相手を探している。
「俺は……一五番か」
一体クラスの誰だろうか。クラス内美少女ランキングではソフト部の高橋、吹奏楽部の坂木と当たれば初体験として文句ないのだが……。
「あっ……?」
鷹平の言葉に反応するように、ぴくっと顔を向けてくる女子がいた。
「な、成瀬……? 一五番?」
「う、うむ……ほら、一五番……」
そっと番号札を見せてくる柚子。ということは……。
「成瀬と……するのか?」
「そういうことに……なるな。よろしく頼む……」
まさか初体験の相手が柚子になるとは。ということはやはり姉はこいつとペアにするために細工していたのだ。朝から柚子も何となくそれを匂わせていたが、もしかして自分を相手に選んでくれたということだろうか。そう思うと嬉しいというか、気恥ずかしいというか。柚子も顔を真っ赤にしている。と。
(なぁ……森川)
いつの間にかそばに寄ってきていた男子生徒が、こっそりと耳打ちしてくる。
(良かったら変わってくんね? 俺、成瀬のこと狙ってたんだけど)
「はぁっ? 何言って……」
同級生の持ちかけに、鷹平は声が上ずってしまいそうになるのを慌てて押さえ込む。
男子は渋々諦めたように去って行ったが、意外なことにその後もちょこちょこと他の男子が鷹平の元にやってきてはこっそり自分と替われと持ちかけてくるのだ。鷹平もそのたびに断ってはいたのだが、とうとう四人目を断った後、思わず柚子の手を握っていた。
「……どうした? 鷹平……?」
事情を知らない柚子は顔を赤くしたまま、きゅっと握り返してくる。
「い、いや……成瀬、結構モテるんだなと思って……」
「? 何がだ?」
はにかむような、いぶかしがるような表情に鷹平の胸がどくん、と高鳴る。
「はーい! じゃあ後は各自自由行動でーす! 避妊はちゃんとするようにねー!」
姉の言葉で鷹平は一気に現実に引き戻される……今から柚子と初体験をするのだ。後は学校内の好きな場所でエッチをするだけ。心臓がばくばくとなり始める。その時、柚子が鷹平の手をぐいっと引いた。
「ほ、ほらっ、行くぞ……床は用意してある」
「と、床っ? えっ、えっ……」
柚子の大胆な誘いに戸惑いながらも鷹平は手を引かれていくのだった。
「う、うむ……私でよければ……こちらこそ、よろしく頼む」
空き教室の隅に敷いた体操マットの上で、森川鷹平は制服姿の女子生徒と向き合ったまま固まっていた。
目の前に正座しているのは成瀬柚子、同級生であり幼馴染だ。剣道少女らしく黒髪をポニーテールにまとめ、整った顔立ちに、つり目がちの視線が上目遣いに彼の様子を窺うように見返してきている。
「その、初めてだから……鷹平に任せるぞ」
「うん。俺も初めてだけど……」
鷹平は緊張にごくりと唾を飲み込む。
こいつとは幼い頃からの付き合いだ。言葉遣いも立ち居振る舞いも変わっていて、男勝りなところもあって、今日までずっと男友達のような関係を続けていた。
しかし今日、自分達はついに、男女としての一線を越えてしまうのだ。
(やっぱ、可愛いよな……こいつ)
こうして改めて向き合ってみると、やはりどぎまぎしてしまう。
今まで男友達として接しながら、何度『女』を感じたことだろう。そんな柚子と男女の関係になると思うと、やはり緊張してしまう。
静かな体育倉庫に気まずい沈黙が訪れた時。
「鷹平……その、早くしないと。時間ないから……」
「わ、悪い。じゃあ、するからな」
ここまで来たらもうやるしかないのだ。そっと柚子の肩を引き寄せ、顔を近づける。
「成瀬……目、閉じて」
「うむ……」
柚子も意図を察したのか、きゅっと目を閉じる。
そして鷹平は、緊張して身を強張らせる柚子の唇に、そっと自らの唇を押しつけた。
「…………んっ」
柚子が微かに声を漏らし、きゅっと袖を握ってくる。
(うわっ、成瀬とキスしちゃってるよ……しかもこいつ、いい匂いするな……)
柚子の唇は想像以上に柔らかく、しかも身体全体から甘い匂いが立ち昇ってくる。
あっという間に鷹平は柚子とのキスに夢中になり、唇を離しては何度も押しつけた。
「んっ……鷹へっ……も、ちょっと……んむっ、ゆっくり……はふっ、んぅっ……」
鷹平のぎこちないキスにも関わらず、柚子はわずかに焦ったような、鼻にかかったような声を上げてキスを受け入れてくれる。
「ちょっ……んむっ、鷹平ってば……んむっ、もうちょっと、ゆっくり……しろっ」
(こいつ、こんな声出すんだ……何か、すごい女の子っぽい声だな……)
いつも男勝りな柚子からは想像もできないような艶っぽい声だ。その反応が一層彼の興奮を煽った。柚子の小さな唇を頬張るように吸いつき、ぷるんとした感触を楽しむ。
「んむぅっ……はぷっ、んふっ……はふっ、ちょっ、待てったらぁっ……んむぅっ」
柚子が何か言おうとしているが、鷹平はもう止まらなかった。さらに口内粘膜を味わおうと、唇を塞いだまま、舌を入れようとした時。
「ん~~~っ! んんんん~~~~っ!」
柚子の手がぽかぽかと背中を叩いているのに気づき、ようやく鷹平は唇を離す。
「……ぷはっ! 落ち着けって言ってるのに! はぁ、はぁ……苦しいだろっ!」
「わ、悪い……その、つい……」
もしかしたら柚子の機嫌を損ねてしまったかもしれない……そうなったらここで終わりだ。鷹平は柚子の反応を緊張して待つ。
「はぁ……はぁ……い、いや、なかなかいいものだな。まさか口づけだけでこんなに……その、こんなに気持ちが盛り上がるとは……」
そして柚子は、はにかむように笑う。
「鷹平としているからかな?」
その言葉に鷹平は身体中が熱くなるような劣情を覚え、思わず柚子を押し倒していた。
「ごめんっ、成瀬……俺、俺っ、もう……」
「あっ、ちょっ……鷹へっ……」
もう止めることが出来なかった。柚子の手首をマットに押さえつけ、口だけでなく、頬、首筋、鎖骨と激しくキスを浴びせていく。
「ひゃっ? 鷹平っ……やめっ……あっ、そんなとこっ……やっ、ひゃんっ……」
鷹平がキスを浴びせるたびに、柚子の身体がふるっ、ふるっ、と反応する。
「成瀬っ、ごめんっ……可愛過ぎてっ、止められないんだけどっ……」
まさかこいつがこんなに可愛いなんて。キスだけでは物足りない。柚子の首筋を音を立てて吸いながら、はだけた胸元に手を伸ばす。
「あっ、こ、こらっ……そっちは、ひゃっ……そんなに吸ったら、痕、出来ちゃっ……」
「成瀬の胸、触らせてっ……ちょっとだけだからっ」
「あぅぅ……ひゃっ? そんなにがっつくなんてっ……あっ、んん……っ、お、お前も……男だったんだなっ……」
鷹平の熱っぽいキスに晒され、柚子の抵抗はあまり強くはない。
勢いに任せ柚子のブラをずり下ろすと、たぽっ、と音を立てるように柚子の乳房が現れた。鷹平は膨らみに躊躇なく手を伸ばし、指を沈み込ませる。
「ふぁっ……ぁぁ、鷹平、胸は……優しくだぞ……っ」
途端に柚子が慌てた声を上げるが、鷹平は構わずにその胸を揉みしだく。
(すげ……成瀬、結構着やせするタイプだったんだな……)
初めて触れる柚子の乳房は想像より大きく、質感もすべすべのもちもちだ。今まで触れたことのないその感触をじっくり味わうように柚子の柔肌を手の平で弄ぶ。
「んぁっ、鷹へっ……こらっ、そんなに激しく揉んだら……ちょっと痛い……もうちょっと、優しくしろ……っ」
「わ、悪い……もうちょっと優しく触る」
いつになく弱々しく懇願するような柚子の声に、鷹平は触り方を変え、膨らみの先端の突起を指で挟んだ。
「きゃぅっ……? 鷹平、そこ……つまんだらっ……」
上ずった声で柚子の背中がびくっ、と跳ねる。
「成瀬もやっぱり……乳首とか気持ちいいんだ?」
柚子の反応に気を良くした鷹平は、何度も柚子の乳首をつまんで指の間で転がす。
「違っ……やんっ……つまむなぁっ! 鷹平……先っぽばっかり、そこは……敏感だからっ……もっと、んくぅっ……」
鷹平が先端を扱くようにつまみ上げるたび、柚子の身体がひくっ、ひくっ、と反応する。口を手で押さえてはいるが、喉の奥から切なげな喘ぎ声が漏れていた。
(やばっ、可愛いな……こいつ)
いつも男勝りな柚子が、こんなに女の子らしく恥ずかしがっている。そんな柚子の姿に、鷹平はさらに大胆になり柚子の下半身に手を伸ばした。
「あっ、ばかっ……そっちは……んむっ?」
柚子が一瞬戸惑ったような声を上げたが、鷹平はキスで口を塞ぎ、パンツの中に手を差し入れる。指先に柔らかい割れ目の肉質を感じた。
「んむっ? っぷは……ひんっ、そこは駄目だって! やめろってば……!」
鷹平の指から逃れるように柚子が腰をくねらせるが、構わずに割れ目に指を差し込む。
「ここ、触っておかないと後で痛いから」
「ばかっ……だからってそんなとこっ……触ったらっ、やめっ……やめろってばぁ! んむっ……鷹へっ、んむぅっ……!」
そんな可愛い声で嫌がられても止まれるわけがない。時折抗議の声を上げる柚子の唇を塞ぎながら、割れ目の中を指先で擦る。柚子の肉裂の中は微かに湿っているだけだったが、粘膜は温かく、柔らかくて、女の子の大事な場所を触っているというだけで鷹平の興奮はどんどん高まっていく。
「あっ、やめっ、そこはっ……もっと優しく触ってくれっ……ばか、こらっ……ひんっ」
鷹平の拙い愛撫にたじろぎながらも、柚子は切羽詰まった声を上げ、時折身体をひくつかせる。
「もうちょっと……もうちょっと触ったら、やめるからっ」
柚子をなだめすかすような言葉をかけながら、鷹平はその割れ目をなで擦る。初めて触る女の子の大事な部分なのだ。止められるわけがなかった。
(えーと、確か……このへん、だよな……?)
柚子の割れ目の中を探り、小さなくぼみを見つけるなり指先をつぷっ、と差し込んだ。
「きゃぅっ!」
柚子の身体がびくん、と跳ねる。
「ひゃっ、やっ……そんなところに……ゆ、指っ……入れるなっ……!」
「でも、ここもちゃんとほぐしておかないと痛いと思うから……触らせてっ」
「うぅっ……わかったっ、わかったから……優しく触ってくれっ……ひんっ」
柚子が自分と同じく性体験がないのをいいことに、鷹平は柚子を言いくるめ、膣内をじっくりと指で味わう。
(女の子の中って、こんなふうになってるんだな)
柚子の膣内は指一本でもきつく、微かな襞がいくつも連なっていて、ここに自分のものを入れるのだと思うだけで下半身が熱くなる。その襞の一部をぷるんと引っかくと。
「きゃぅぅっ……ぅぅっ……!」
柚子が先程とは違う上ずった声を上げ、膣がきゅっと収縮する。
「やっ……鷹平、そこっ……変な声が出るからっ……触らないでくれっ」
「成瀬、もしかして……感じたりする?」
「し、知るかっ……! そんなこと……っ、いいからやめっ……」
柚子の……女の子の反応する場所を見つけ出してしまった。あの柚子が女の反応を見せている。それに興奮した鷹平は執拗に膣襞を指先で引っかく。
「んっ……やっ、あふっ、そこっ……あんまりしつこく触ったらっ……あっ、やっ……何か……んくっ、くんっ……くぅんっ……」
鷹平が膣襞を引っかくたびに柚子の声の調子が変わってくる。同時に、膣内の湿り気が増し、指先にとろとろとしたものが絡みついてきた。
「成瀬、これ、もしかして……濡れてる?」
「あ、当り前だろ……! そこを、んっ……そんなに弄られたらっ……私だって女なんだからっ、濡れるに決まって……あぁっ、だから、擦るなってばぁ……!」
自分の指に反応し、普段聞いたことのない声を上げる柚子の姿に、鷹平は頭の芯がカッと熱くなるような欲情を覚える。今すぐこいつと繋がりたい。このきつく温かい肉穴を、指でなく自分の下半身で味わいたかった。
身体を起こした鷹平は、焦りで手間取りながらズボンのチャックを下ろし、既に硬く張り詰めていた肉棒を引きずり出す。
「成瀬っ、俺、もう入れたいんだけどっ……いいよなっ?」
「えっ? お前、もうそんなに……しかしっ……まだ、心の準備が……」
そそり立つ少年の肉棒を目にし、柚子が先程の決意も忘れたのか、たじろいだように後ずさろうとした時、廊下から聞きなれたチャイムの音が聞こえてきた。
「あ、その……もう次の授業始まるから……次の機会に……」
しかし、鷹平は立ち上がろうとする柚子の肩を押さえつける。
「だから早くしないとっ……成瀬っ、この時間で済ませないと!」
逃げ腰になる柚子を説き伏せようと鷹平は躍起になる。何しろこの時間で行為を終えないと、もうこいつと出来るチャンスはないかもしれないのだ。
「あぅ……何で今日に限ってそんな押しが強いんだ……うぅ……いつもそうなら、私だって……あぅぅ……」
柚子は言葉を探していたが、やがて観念したように頷いた。
「……わかった、じゃあ……よろしく頼む。優しくしてくれよ?」
「あ、ああ、わかってる。痛くしないようにするから……多分」
言いながらも彼はうわの空で制服のポケットからコンドームを取り出す。
ついに、念願の初体験なのだ。いつ、どんな体験になるかいろいろ妄想してきたが、まさかこいつとすることになるなんて……しかも自分達はつき合ってもいないのに。
(これから、成瀬と……するんだよな。いいんだよな?)
夢のようなシチュエーションに胸が一杯になりながらコンドームをつけ始めるが、今までつけたこともないのに加え、気持ちも焦ってしまい、うまくつけられない。
そんな彼の様子に、柚子が恐る恐る声をかける。
「な、なあ……もうちょっと早くしてくれないか? その、覚悟が鈍りそうだ……」
「ちょ、ちょっと待て。今つけるから……えーと、こうやって……」
「まったく。つけ方は授業でやっただろ……ちゃんと予習してこい」
手間取りながら避妊具を装着する鷹平の様子に、柚子は焦れたように熱い溜息を吐き出して待つ。
……そう、彼らの高校ではセックスの実技が必修になったのだ。
第一章
「ようくん、おかえりー、ごはんできてるからねー」
「あ、うん、ただいま」
「えと、おにい……こっちすわって」
「うん、ありがと」
公園の隅に姉と妹が線を引いて作った居間に、鷹平は恐る恐る足を踏み入れる。周りには綺麗に重ねられたお皿や、そこらで汲んできた水道水を入れたコップ。本当は友達とサッカーをしたいのだが、どうせまた姉妹と遊んでいるのでからかわれるだけだろう。
「はい、きょうはハンバーグですよー、たくさんたべてねー」
「う、うん。いただきます……」
姉が土を丸めて作った塊に手を出そうとした時。
「おにい、わたしもつくったの……さらだ」
妹がプレートに乗せた山盛りの雑草を差し出してくる。
「あ、うん。これもたべるな」
鷹平がお皿を受け取って食べる真似をしようとすると。
「だめっ! きょうはおねえちゃんが、おかあさんなんだからっ!」
「おねえちゃん、きのうもおかあさんやったじゃん……わたしもやりたい」
「こ、こらこら……けんかしないで」
姉妹が喧嘩を始め、鷹平は慌てて取りなそうとするが。
「こらー! ようへい! いつまでままごとなんかしてるんだ! ちゃんばらするぞ!」
振り返ると、もう一人の女の子が木の枝を振り回しながらやってきた。そしてずかずかと家に入り込んきて、どかっと座り込む。
「ゆずちゃん! ちゃんとくつぬいでよね!」
「じゃ、ゆずちゃんはわたしのおねえちゃんね」
「ようへいがおとうさんやくなら、わたしがおかあさんだっ! ほら、わたしがめしをよそってやる!」
言ってやってきた女の子が強引に器に土を盛り始める。
「かってなことしないでよ、ゆずちゃん! おねえちゃんがおかあさんなんだからぁ!」
「なにをー! わたしがおかあさんだろ! な? ようへい」
「え……え……? おれはどっちでもいいけど……」
二人がぎゃーぎゃー騒ぎ始め、鷹平はおろおろするばかりだ。気がつくと、妹がそばでいじけて砂を集めていた。
「うぅ……わたしもおかあさんやりたいのに……!」
そして、砂をぶちまけた。
「すずめちゃんのばかー! おねえちゃんちよごさないでよー!」
「なにやってるんだ、すずめっ、わたしがおかあさんなんだぞっ!」
「なんでいつもけんかするんだよ……」
自分の周りで三人の女の子が争いを始めて、しっちゃかめっちゃかになってしまった。その光景に少年は呆然とするばかりだった。
☆ ☆ ☆
「ん……」
目覚まし時計のボタンを叩いた鷹平は、のそのそとベッドから起き上がる。
3月に入ったばかりの朝はまだ寒く、いつもなら布団から出るのも億劫なくらいなのに、今日はアラームが鳴る前に目が覚めてしまった。何だか懐かしい夢を見た気がする。
「…………」
何となく部屋を見回してみるが、どうということはない。
ここにいるのは、森川鷹平、高校2年。ごく普通の高校生らしく、相変わらず冴えない感じだが、今日はそれではちょっと困るのだ。何しろ……。
「……ま、いいか」
結局、それ以上自分に期待することはせず、鷹平は適当に制服を身につけて部屋を出る。
「あ、おはよう。鷹くん。今起こしに行こうと思ってたのに。今日は早いね」
「うん、おはよう。姉ちゃんこそ早いじゃん」
台所には既に制服姿の姉がいて、ぱたぱたと動き回っていた。
森川つぐみ。鷹平の一つ上、同じ高校に通う3年生。背中まで伸びたふわふわの髪の一部をまとめ上げ、少し垂れ目がちの、柔らかな顔立ちの美少女だ。
制服の下に隠れた身体は発育良好過ぎるくらいでブレザーを苦しそうに押し上げ、ストッキングをつけた脚はぱつっ、と音を立てそうなくらいに肉が詰まっている。
そのうえ、成績優秀で高校では生徒会長を務め、生徒の人望も厚い。ほぼパーフェクトな姉と言っていいだろう。それだけならいいのだが。
「鷹くん、今日の授業の準備ちゃんとした? 忘れ物ない? ネクタイ曲がってるよ」
鷹平の回りをぐるぐる回り、髪をなでつけたり、ネクタイを直したり、慌ただしい。
「やめろって、姉ちゃん。俺は大丈夫だからっ!」
「そう? お姉ちゃん、心配なんだけど……」
鷹平に突っぱねられしゅんとなるつぐみ。これが、姉をパーフェクトと言いきれない理由だった。昔からとにかく鷹平に構いたがる。要するにブラコンなのだ。
そんなやり取りをしている時。
「ふぁ……おはよ」
「おはよう、すずめちゃんも早いね。めずらしー」
「ん……まあ、一応」
姉の言葉にもごもごと答えるのは鷹平の一つ下の妹。森川すずめ。
ぼさぼさのウルフカットを明るい色に染め、くりっとした瞳は見ようによっては可愛いのだが、今兄を見る目は警戒心を露わにしている。開いたブラウスの胸元から覗く膨らみは控えめで、脚はすらりと長くスレンダーで、姉とは正反対だが美少女の類と言っていいだろう。
その一方、素行も姉とは対照的に不真面目そのもので、授業はサボるわ、制服を着崩すわ、周囲に苦労をかけっぱなしだ。鷹平も何度も叱っているのだが、なかなか言うことを聞いてくれない。見た目も中身もとにかく生意気盛りなのだ。
「……何じろじろ見てんだよ?」
鷹平を威嚇しながら隣に座るすずめだが、昔は甘ったれのお姉ちゃん子でお兄ちゃん子だったのだ。つぐみと鷹平の姿が見えなくなると、小鳥のようにぴーぴー騒ぎ立てて気を引いては甘えてくるようなやつだったのに。
そんな姉妹と席につき、朝食が始まる。
「……すずめちゃん、今日の準備した?」
「……うん、お姉ちゃんは……そか、授業……保健係だからいいんだよね」
「すずめ……」
「お兄には聞いてない」
「まだ何にも言ってないだろが!」
「はいはい、二人とも早くご飯食べちゃってね」
姉に急かされ、兄妹はむすっと朝食を再開する。これが森川家の一日の風景だった。
親が家を空けがちなこともあって、何でも三人でやってきたのだ。小さい頃はもっと仲が良くて、何でも一緒にやっていた。日々の生活から、おままごとのような遊びまで、数で敵わない鷹平はいつも二人に付き合わされていた。それが成長につれて少しずつ距離が出来てしまったが、今でも三人でがちゃがちゃと騒がしい毎日を送っている。
そしてもう一人、三人の関係にまた別の方向から力を加えてきた人物がいる。
……♪。
玄関のチャイムが鳴り、三人の動きが止まる。時刻はまだ8時前だ。
「あれ? お隣さんかな? 鷹くん、回覧板ちゃんと回した?」
「回したけど……俺が見てくるよ」
口にレタスを詰め込みながら、鷹平が玄関に向かうと……。
「お、おはよう……鷹平、もう起きてたか……」
外に立っていたのは成瀬柚子だった。長い黒髪をポニーテールにまとめ、竹刀袋を肩にかけた姿が凛々しく決まっている。
「あ、成瀬か……どした?」
柚子は近所の剣道教室の娘で、鷹平達の幼馴染だ。鷹平が幼い頃に剣道教室に通っていたのがきっかけで仲良くなり、よく四人で遊んでいた。といっても、男勝りの柚子は鷹平をままごと以外の遊びに連れ出したがり、よく姉妹と喧嘩になっていた。鷹平が剣道を辞めてからは適度な距離が開き、今ではそれなりに仲良くやっているが、当時の姉妹にとっては天敵のようなものだったろう。
そして、鷹平は未だにこの幼馴染との関係を計れずにいた。中学生まではショートヘアで男の子のようなやつだったのに、高校になってからは髪も伸ばし、体型も変わり、どんどん女の子らしくなっていく。それなのに、未だに男友達のような関係が続いているのだ。
「特に用はないんだが、その……たまには一緒に行こうと思ってな……」
「まあ、いいけど。ちょっと待ってろ。姉ちゃん達も呼んでくるから」
「あっ、こ、こらっ……鷹平だけで……」
後ろで柚子が何か言っているのが聞こえたが、鷹平は構わず姉妹を呼びに向かった。
「えへへ、柚子ちゃんと一緒に学校行くの、久しぶりだね」
「うむ。今日は朝練がなくて」
「柚子ちゃん、今日の準備してきた?」
「うむ……私は、その……今朝も湯あみを……」
「そうなんだ……気合い入ってるね」
まだ寒さの残る春先の通学路をのんびりと歩きながら、鷹平は三人の会話をぼんやり聞いていた。昔と同じような懐かしい空気の中、三人の会話はどことなく緊張しているようだが、鷹平はうわの空だ。それもそのはず、何しろ今日は……。
「お兄、エロい顔するのやめてくれない?」
「……はっ? な、何言ってんだ。俺は別に……」
口ではそう言うものの鷹平の顔はまたにやけてしまう。
「ふふっ、しょうがないよ。男の子はみんな楽しみにしてたもんね」
「そ、そうか。やはり鷹平も待ちわびていたのだな……」
「ま、まあな……」
そう、今日は性教育の実技が始まる日。
つまり、今日から授業でクラスの女の子達とセックスが出来るのだ。
日本は現在、少子化がのっぴきならない状態まで来ていた。
晩婚化、出生率の低下、いろいろな要因が重なり、この国の未来が危ぶまれる段階になり、とうとう出生率の上昇が政策の重要課題として進められることになったのが数年前だ。
しかし、育児制度の拡充、出産後の経済的支援など様々な政策をしても一向に出生率は上がらない。条件付きで重婚やきょうだい婚まで認めるという強硬策まで実施したのにほとんど効果がない。そして本格的な調査の末に明らかになったのは、一番の原因が『若者のセックス離れ』ということだった。
本来ならば国として様々な要因を考慮した上で一つずつ解決していくべきなのだろうが、そんな悠長なことをしている時間的余裕はない。『若者のセックス離れ』対策にとうとう国が本腰を入れることになってしまった。
数年の間、いろいろな議論が交わされたが、結局最善の策は、学校生活の中でセックスに慣れさせるのが一番だ、ということになった。しかし、ただ『セックスをしましょう』と教員が促すだけでは劇的な効果は望めない。そこで、学校の授業にセックスを取り入れてしまおう、性教育の実習が『保健体育?』としてカリキュラムを組まれることになった。
かといっていきなりすべての学校でセックスを始めるような無茶は出来ない。テストケースとして全国からいくつかの高校が選ばれることになり、何段階もの選考の末、鷹平達の通う高校が選ばれた。それから数か月、いろいろな準備をした末、とうとう今日からセックスの実習が始まるのだ。
「へへ…………」
通学路を歩く鷹平は、そばに女の子三人がいるにも関わらず、ポケットに突っ込んだコンドームを握りしめ、またにやついてしまう。
浮かれないわけがない。性教育の実習なんて、男子にとって、夢の授業がとうとう現実になるのだ。しかも鷹平にとっては童貞を卒業出来るとあって、期待もなおさらだった。
「なぁ、鷹平、その……私が相手だったらどうする? ちゃんとしてくれるか?」
「え? うーん……その時にならないとわかんないけど、その時は頑張るよ」
柚子の言葉に鷹平は適当に答える。今日のセックスの授業のことで頭がいっぱいで、柚子を気遣う余裕がなかった。
「そうか……うむ、頼もしいぞ」
柚子の安心したような溜息にも気づかず鷹平がまたにやついた時。
「あ~あ、お兄とエッチする人がかわいそ……」
すずめがじとっとした目を向けてきていた。この話題になるとよく見せる、どこか恨みがましげな、それでいて探るような目だ。
「うっせ、授業だからいいんだよ、授業だから。それに遊んでるお前と違って俺達は大変なのっ」
「そ、そんなのお兄に関係ないじゃんっ」
すずめがほんのわずかに傷ついたような表情を見せたが、すぐに顔を背けてしまった。
「こーら、鷹くん、意地悪言っちゃだめでしょ?」
「あ、うん……ごめん」
姉に額を軽く小突かれ、鷹平は思わず謝るが。
「姉ちゃんは保健係だし、今日はやっぱりしないんだよな」
保健係である姉の仕事は、授業のスムーズな進行だ。抽選が公平に行われるよう管理し、男女の人数が合わない時は他のクラスに回して調整したりとやることは多い。そのため授業には参加せず、希望のタイミングで授業を受ければいいことになっている。
「お姉ちゃんのことは気にしないで。みんなが公平にエッチ出来ればいいんだから」
今のところ一歩引いたところにいるものの、そしていつかは姉も誰かとすることになるわけで……。
「…………」
やはり、自分の家族が誰か知らない男と……というようなことは気まずいというか、あまり考えたくない。もちろん鷹平にとってはすずめだって大事な妹だし……心がざわつきかけた時。
「行くぞ、鷹平」
柚子が珍しく……以前のように……鷹平の手を取りぐいぐい引いていく。
「あ、おい……」
我に返った鷹平はわけもわからず柚子に手を引かれるまま高校まで連れられて行った。
そしてとうとう運命の5時間目……。
体育館は集まった生徒たちの期待や緊張で、異様な熱気を放っていた。何しろ彼らにとって初のセックスの授業なのだ。
「鷹くん、ホントに大丈夫? ちゃんと歯磨いた? ティッシュ持った? コンドームは? お姉ちゃんがついていってあげよっか?」
姉がしきりに鷹平にまとわりついてくる。テスト前など、いつもああだこうだと世話を焼きたがるのだが、セックスの授業の前でもこれをやられたら恥ずかしくて仕方ない。
「俺は大丈夫だって! 姉ちゃんは保健係の仕事があるだろっ、もう戻れって」
「そう? 何かあったら呼んでね……?」
心配そうにしながら、つぐみは去り際に柚子になにごとか耳打ちし、とことこと歩いて行った。
「……」
姉に何か吹き込まれたのか、柚子がじっと見つめてくる。
「成瀬、どした?」
鷹平の言葉に柚子がびくっと反応する。どういうわけか顔も赤い。
「い、いや……何でも、それより、すずめは? あいつもこの授業だよな?」
「サボりだろ……ったく」
取り繕うような柚子の問いに鷹平は溜息をつく。この授業は一学年一クラスずつのタテ割なのだ。三人全員が一組だったため、偶然同じ授業を受けることになったのだが、すずめは一回目の授業から早速サボっている。それにしても。
(気まずいよな…………)
姉や妹と一緒にセックスの授業をするのはやはり気まずい。それに、姉や妹が誰か他の男と自分の知らないことをするというのは、どうしても割り切れない。授業だし、仕方ないことなので出来るだけ考えないようにはしているのだが。
その時、ついに授業の開始を告げるチャイムが鳴る。
体育館内が一斉にざわつき、鷹平も一気に現実に引き戻される。
「はーい! 静かにー! 抽選を始めるので出席番号順に並んでくださーい!」
正面に立っている姉がぱんぱんと手を鳴らして生徒達を静かにさせ、並ばせる。
「そ、それでは……後でな……」
「お、おお…………?」
柚子が意味深なことを口にして離れていくが、鷹平はそれどころではない。今からとうとうセックスの実習が始まるのだ。
ルールはそれほど難しくはない。このひと月、毎週三回、授業二コマぶんの時間を使って、抽選でペアを作って学校内の好きな場所でセックスをする。それだけだ。
当然、授業をサボったり、相手が嫌だからといって拒否したりで、規定の回数以上セックスをしなければ単位がもらえない。現在は三月、三年生は卒業出来ないということになり将来に関わる問題だ。唯一、妊娠している者のみ授業が免除されるが、そんな生徒は聞いたことがない。
「じゃあ抽選を始めまーす! 今日は学年ごと、一年生から順に来てくださーい! 余りが出ないようにしてあるから後でも先でも変わらないですよー!」
体育館正面、姉の前にある長机の上には大きな箱が二つあり、上方には手が入るくらいの大きさの穴が空いている。男子用と女子用に分かれていて、それぞれに同じ番号が書かれたカラーボールが入っているのだ。後は簡単、同じ番号を引いた男女がペアをになるだけだ。
「はーい、押さないでね。また次の授業で抽選するから慌てなくていいよー」
公平な抽選が必要であり、不正が起こらないよう管理するのが保健係である姉なのだ。姉が見ている前で皆がボールを取っていく。
(うぅっ……お、俺の番だ……!)
とうとう鷹平の番がやってくる。一体誰とすることになるのだろうか、思い切って箱に手を入れボールを掴む……今、この手の中に初体験の相手がいるかと思うと手が震えた。
「はい、鷹くん、ボール取ったら戻ってね……あっと」
姉の手が鷹平のボールを取り落とし、さっと別のボールを拾い上げる。
「……ごめんね、はい。可愛い子と当たるといいね?」
「あ、うん……」
何やら思わせぶりな姉の言葉に曖昧に答えつつも、鷹平は列に戻る。何か細工したように見えたのだが。そして……。
「はーい、じゃあ同じ番号同士でペアになって並んでくださーい!」
姉の言葉で生徒達がざわざわと動き始める。手を振ったり、番号を口にしたり、男女ともに相手を探している。
「俺は……一五番か」
一体クラスの誰だろうか。クラス内美少女ランキングではソフト部の高橋、吹奏楽部の坂木と当たれば初体験として文句ないのだが……。
「あっ……?」
鷹平の言葉に反応するように、ぴくっと顔を向けてくる女子がいた。
「な、成瀬……? 一五番?」
「う、うむ……ほら、一五番……」
そっと番号札を見せてくる柚子。ということは……。
「成瀬と……するのか?」
「そういうことに……なるな。よろしく頼む……」
まさか初体験の相手が柚子になるとは。ということはやはり姉はこいつとペアにするために細工していたのだ。朝から柚子も何となくそれを匂わせていたが、もしかして自分を相手に選んでくれたということだろうか。そう思うと嬉しいというか、気恥ずかしいというか。柚子も顔を真っ赤にしている。と。
(なぁ……森川)
いつの間にかそばに寄ってきていた男子生徒が、こっそりと耳打ちしてくる。
(良かったら変わってくんね? 俺、成瀬のこと狙ってたんだけど)
「はぁっ? 何言って……」
同級生の持ちかけに、鷹平は声が上ずってしまいそうになるのを慌てて押さえ込む。
男子は渋々諦めたように去って行ったが、意外なことにその後もちょこちょこと他の男子が鷹平の元にやってきてはこっそり自分と替われと持ちかけてくるのだ。鷹平もそのたびに断ってはいたのだが、とうとう四人目を断った後、思わず柚子の手を握っていた。
「……どうした? 鷹平……?」
事情を知らない柚子は顔を赤くしたまま、きゅっと握り返してくる。
「い、いや……成瀬、結構モテるんだなと思って……」
「? 何がだ?」
はにかむような、いぶかしがるような表情に鷹平の胸がどくん、と高鳴る。
「はーい! じゃあ後は各自自由行動でーす! 避妊はちゃんとするようにねー!」
姉の言葉で鷹平は一気に現実に引き戻される……今から柚子と初体験をするのだ。後は学校内の好きな場所でエッチをするだけ。心臓がばくばくとなり始める。その時、柚子が鷹平の手をぐいっと引いた。
「ほ、ほらっ、行くぞ……床は用意してある」
「と、床っ? えっ、えっ……」
柚子の大胆な誘いに戸惑いながらも鷹平は手を引かれていくのだった。