奪われ妻
~完堕ち温泉社淫旅行~
2018年7月24日
オトナ文庫
著:雑賀匡
画:もんぷち
原作:スタジオ奪
7月28日発売のオトナ文庫『奪われ妻 ~完堕ち温泉社淫旅行~』のお試し版です!


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美しくも肉感的な妻を狙うゲスな男たち!
夫は彼女を守り切ることができるのか……!?







 宴会の終わった広間のあちこちに、酔い潰れた男たちが転がっていた。
 ほとんどの者は途中で切り上げて部屋へ戻っていたが、最後まで飲んでいた連中がそのまま正体をなくして居座り続けているのだ。

「……ひどい状態ね」

 まるで、酒の飲み方を知らない学生の飲み会である。
 明音が記憶している中でも、かなりひどい部類に入る光景だった。

「申しわけありません、明音さん。最後までつき合っていただいて」

 舞依が丁寧に礼を言って頭を下げてきた。
 彼女とは今朝バスに乗車した際に初めて会ったばかりだが、その生真面目さは秋弘に言われるまでもなく、すぐに理解することができた。
 地味な感じがするけれど、近くで見るとかなりの美人だ。
 無愛想なところがなければ、社内でもかなり人気がありそうな女性だった。

「いえ、こういう雰囲気は久しぶりで、私もついつい居残ってしまっただけだから」

 この数時間──酒や料理を運んだり、注文の聞き取りをしたり、ときには酌をした相手の愚痴にまでつき合った。
 気付くと、いつの間にか周囲は惨憺たる状況になっていたのだ。

「ご協力ありがとうございます。本当に助かりました。多少なりともアルバイト代が出ないか、庶務のほうに掛け合ってみますので」
「いいわよ、そんなの。旅行代だって出してもらっているのに」
「旅行に関しては全員同じ条件です。それにきちんと請求していただくと、もうひと仕事が頼みやすくなりますから」
「もうひと仕事?」
「はい。この酔っ払いどもを、それぞれの部屋へ帰らせます」

 舞依は大広間を見渡して、深々と溜め息を吐いてみせる。明音もつられるようにして、周囲で酔い潰れている男たちを見まわした。改めて見るとかなりの数だ。これだけの人数を宴会場から追い出すのは、実に骨の折れそうな作業だった。
 明音は舞依と顔を見合わせて苦笑した。

「では、寝ている人を起こして、部屋に戻るよう声をかけてください。どうしても起きない者はこちらで対処します」
「分かったわ」

 すでに周囲では旅館の従業員たちが、酔い潰れた者に声をかけてまわっている。完全に撤収してもらわなければ片付けも始められないのだろう。そう考えると旅館の人に申しわけない気分になり、自然と手伝わなくてはという気持ちになる。
 ──まあ、こういうのも嫌いじゃないしね。
 なんだか昔に戻ったようで、面倒な仕事を少し楽しんでもいた。
 学生時代、酔い潰れた友人たちの面倒をみるのは、いつも飲むペースを崩さない明音や、酒に強い昭興の役割だったのだ。
 逆に秋弘は酒に弱く、いつも介抱される側で──。

「って、あなた!?」
「おう、明音。おーい、秋弘、明音が来たぞー」
「…………ぐぅ」

 夫がいつの間にか完全に酔い潰れていた。
 その隣では、顔を赤くした昭興がチビチビとひとりで飲み続けている。

「ありゃ……よく見たら、もうお開きになってるな」
「もうとっくによ。ここを借りられる時間を三十分も過ぎてるって」
「そっかあ、まるで野戦病院みたいになってるな、ははは」
「笑ってる場合じゃないわよ。あなたもさっさと自分の部屋に戻りなさい」
「うーい……っと、なんだ、明音はまた追い出し役か?」

 さすが酒に強いだけのことはある。昭興は酩酊した状態でも、明音がなにをしているか、きちんと把握しているらしい。

「じゃ、秋弘は俺が連れて行くとするか。部屋に放り込んどきゃいいだろ?」
「布団くらいは敷いてあげてよね」
「あいよ。ほれ、行くぞー、秋弘」

 昭興は秋弘に肩を貸しながらふらふらと立ち上がる。
 多少、足元が心許なかったけれど、意識はしっかりしているようなので、とりあえずは任せておいても大丈夫だろう。
 宴会場を出て行くふたりを見送っていると、

「竜崎くん、起きなさい。私ではあなたを支えるのは無理ですよ」

 舞依が大の字になってイビキを掻いている竜崎に声をかけていた。どうやら完全に眠り込んでいるようで、彼女の声にピクリとも反応していない。
 あれは厄介そうだ──と思いつつ、再び周囲を見まわしてみる。
 声をかけただけで起きる昭興たちのような者は、もうほとんど広間を出て行ったらしく、残っているのは完全に泥酔している連中だけだ。
 耳元で叫ばれたり、担がれて連れて行かれたりしている。
 そろそろお役御免かと思っていた矢先。

「……おお、誰か……肩を貸してくれんか」

 あまり聞きたくなかった声が耳に入ってしまった。



 人気のない旅館の廊下を、明音は鬼島に手を貸しながら彼の部屋へと向かっていた。

「すまんねえ、奥さん。調子にのって少し飲みすぎたようだ」
「いいえ、お気になさらず」

 酒臭い吐息に顔をしかめながらも、声だけは愛想よく答える。
 あまり拘わりたくない相手だったが、夫の会社にとっては重要人物だ。
 他に任せられる人がいなかったということもあり、仕方なくセクハラ行為のことは呑み込んで、彼を助けることにしたのだった。

「部屋は三○五号室でいいんですよね?」
「あー、三○五だ。窓から源泉の煙突だかが見えるんだよ、うん。ありゃあ赤いな」

 酔って意味不明なことを口にしていたが、幸いにも鬼島の足腰はしっかりしていた。
 そのため肩を貸すだけでなんとか歩くことはできたのだが、左右にふらふらと揺れて、少しでも気を抜くと転んでしまいそうだった。
 ──歳の割にガッシリとした人ね。
 昔はなにかスポーツでもやっていたのか、鬼島はかなり体格がいい。自然と密着した彼の身体は筋肉質で、秋弘よりずっと硬い感じだ。
 もし自分で歩けないほどだったら、明音にはどうすることもできなかっただろう。
 横から支えていると、まるで岩でも運んでいるかのように思えてしまう。

「……おっと」
「ひゃっ!?」

 鬼島がふらっとよろけた拍子に、肩にまわされていた彼の手が明音の胸を掴んだ。

「クラクラするな……すまんね」
「い、いえ……大丈夫ですから。鬼島さんも、しっかりしてくださいね」

 明音はそう答えながら、胸に置かれたままだった鬼島の手をさりげなく外した。
 ──偶然、かしら?
 こんな体勢だから仕方ないのかもしれないが、セクハラ行為上等の彼が相手だと、どうしてもわざとではないかと勘ぐってしまう。
 しかも、いまは通常よりも胸元が気になる状況だった。
 配膳を手伝っている際、誤って客のひとりにビールをかけられてしまったのだ。
 濡れた浴衣は化粧室にあったドライヤーで乾かしたが、ブラジャーは染み抜きのついでに畳んでバッグに入れた。こんなに長く宴会場にいるとは思わなかったので、一時的な処置のつもりだったのだ。
 おかげでいまは、浴衣の下になにもつけていない、ノーブラの状態である。
 バレないよう胸元に注意しながら、少しでも早く鬼島を部屋に連れて行こうと歩き始めたときのことだ。彼の手が再び乳房に伸びてきた。

「んっ……あの、鬼島さん……?」
「んー、なにかねぇ」

 困惑する明音を余所に、鬼島はムニムニと手のひらを動かした。
 まるで胸の感触を確かめるように蠢いているが、口調が先ほどまでと変わっていないところをみると、あるいは無意識なのかもしれない。
 酔っ払いを突き放すわけにもいかず、させるがままにしていたが──。
 浴衣越しではあるが、彼の指先が的確に乳首へと触れてきた。
 ──こ、これ……ほんとにわざとじゃないの?
 はねのけるべきか、無視するべきか。
 明音が判断に困っている間に、鬼島の手の動きはどんどん大胆になってくる。

「ちょっと、あのっ……待って、これ、あ……っ!?」

 不意に浴衣を引っ張られ、生の乳房が露出してしまった。
 彼の蛮行はそれだけでは収まらず、下半身に伸びた手を浴衣の裾に潜り込ませ、いやらしく太股を撫で上げてくる。もはや完全に故意だと分かる行為だ。

「い、いやっ……そんなとこ……んんっ!」











 敏感な乳首をつままれ、明音はついに声を上げてしまった。
 突き飛ばさなかったのは最後の自制心だ。

「お、鬼島さん……あなた、起きていますよね!?」
「……いやぁ、夢見心地で、なんのことか分からんなぁ」
「だから、やめてください! これはセクハラですよ」

 明音は少し強めの口調で言い放った。本当なら「犯罪だ」と糾弾したかったが、そこまで言いきるのはマズイという理性が働いた。
 一刻も早く鬼島から離れたかったが、肩を貸していたせいで抱きしめられているも同然の格好であり、押さえつけられると逃げることもできない。

「ん? この硬くなっているのは……もしかして、奥さんの乳首だったりしないかね?」

 耳元で囁かれた言葉に全身が粟立った。
 けれど彼の言う通り、敏感な突起は刺激に反応して硬くなり始めている。

「くっ……も、もう本当に……っ!」

 つまんだ乳首を指先で転がされ、ゾクリとしたものが背中を走り抜けた。
 もはや大声を出すしかない──と覚悟した次の瞬間。

「ははは、すまんすまん。冗談だよ」

 鬼島がさっと離れていった。ふらついていたのが嘘のような、しっかりとした足取り。
 最初から全部演技だったことが分かる。

「あ、あなたって人は……」

 明音は慌てて乱れた浴衣を直しながら、キッと彼を睨みつけた。

「おいおい、男を知らない小娘ってわけでもなかろう。あれぐらい、ちょっとしたスキンシップだと思っておきたまえ」

 傲慢極まりない台詞を口にし、鬼島は明音に背を向けた。

「安心しなさい。乳首が勃起してたのは秘密にしておいてやる」
「な……っ!?」

 あまりの言葉に明音は呆然としてしまう。遅れて、羞恥と怒りで身体が震えてきたが、そのときにはすでに鬼島は立ち去ってしまっていた。

「もうっ、なんなのよっ!?」

 ドキドキと高鳴る胸を押さえ、明音は吐き捨てるように言った。
 残念なことに、それくらいしかできることはなかった。



「……まったく、ひどい目にあったわ」

 思い出すだけでもムカムカと腹が立ってくる。
 鬼島の行為は完全にセクハラの範疇を超えており、痴漢として訴えてもいいくらいだが、それが現実的でないことは明音自身が一番よく分かっていた。
 部屋に戻ると、秋弘が布団の上でイビキを掻きながら眠っていた。
 どうやら昭興はちゃんと面倒をみてくれたようだ。
 ──もし、今回のことを秋弘に相談したら……。
 明音は夫の寝顔を眺めながら考えてみた。
 生真面目で愛妻家の彼は、会社を辞める覚悟で鬼島を糾弾するかもしれない。
 それだけは避けたかった。半年前にあった事件の際、彼がどれほど落ち込んでいたのかを間近で見てきているのだ。
 もう秋弘をあんな目に遭わせたくはない。
 もしも夫が会社を辞めるなどということになったら、必死に支えてきた自分の苦労も無駄になってしまう。だから彼にはなにも言えない。やはり言わないことに決めた。
 少し胸や太股を触られただけのことである。学生時代にも何度か痴漢に遭遇したけれど、そのおかげで、憂鬱な気分を他のことで紛らわせる術も身に着けていた。

「……お風呂にでも入ろうかな」

 悶々としていることにも疲れた明音は、嫌な記憶を振り払おうと、入浴の準備をして、ひとり風呂に行くことにした。ゆっくりと湯に浸かり、今回のことは犬に噛まれたとでも思って忘れてしまおうと考えたのだ。
 時間が遅いということもあり、大浴場に他の人の姿はなかった。
 身体を洗い終えた明音は、浴場にある扉を開けて外へと出てみた。東屋が設置された広い露天風呂は、この旅館が売りにしているだけあって、なかなかに風情があった。

「はぁ……本当に素敵ね」

 今日は散々な一日だったが、最後はこんな風呂に入れたのだ。
 厄災はここですべて洗い流してしまおう。
 そんなことを考えながら湯に浸かっていると、人の近付いてくる気配があった。
 どうやら誰かが露天風呂へとやって来たらしい。
 いま、この宿に泊まっている客なら、秋弘と同じ会社の人間である可能性が高いはずだ。見知った人物なら挨拶くらいはしなければ、と明音は軽く腰を上げて背後を振り返った。

「……え?」
「あ、あれ?」

 そこに立っていたのは──竜崎だった。
 彼は唖然とした表情を浮かべながら、ぼんやりと明音を見つめている。

「なっ……竜崎さん? なんで、あなたが女湯にっ!?」

 明音は咄嗟に湯の中に沈み、身を隠しながら声を上げた。

「え、あの……こ、ここの露天……この時間、男湯……ですよ?」

 竜崎がしどろもどろになりながら答える。

「はあ? 男湯……?」

 返ってきた答えがあまりにも想定外だったため、明音は悲鳴を上げることも、その場から逃げ出すことも忘れてしまった。

「ここって、脱衣所と内風呂は別々だけど、露天は男湯と女湯が時間で入れ替わるんです。いまは男湯の時間で……外扉には鍵がかかってませんでした?」

 彼の言葉を聞いて明音は顔を青くした。
 内風呂から露天へ繋がる扉には、確かに鍵がかかっていた。
 つまり、この旅館に露天風呂はひとつしかなく、時間交代制だったのだ。 
 鬼島の件で頭にきていたため、なんの疑問も抱かずに開けてしまったが、張り紙や注意書きを見逃していたのかもしれない。

「それで、いまは男湯の時間……だから、僕はべつに女湯を覗いたわけじゃ……」
「わ、分かった。もう分かりましたから」

 明音は手を振って竜崎の弁明を遮った。
 彼を疑っているわけではない。これは自分のミスだろうと自覚していた。
 ──もう、やっぱり今日はずっと最悪。
 たくさんの男たちがいない状況で幸いだったが、どういう因縁なのか、竜崎には下着姿に続いて裸まで見られてしまったのである。
 深々と溜め息を吐いていると、竜崎が少し不思議そうに問いかけてきた。

「明音さん……悲鳴を上げたり、騒いだりしないんですね」
「あ……いや、それは……」

 自分の迂闊さを呪って固まっていただけだ。
 だが、竜崎はそれを別の意味に捉えたらしい。

「僕、会社でもみんなに嫌われてて……仲のいい友達とは違う部署に配属されちゃったし、仕事もできないし、いつも怒られるし、喋るのも苦手だし」
「は、はあ……」

 彼がいきなり自分語りを始めてしまったため、明音はなんとなくこの場を離れるタイミングを失ってしまった。できれば早く内風呂に戻りたいところだが、こんな状況になったのは自分が悪く、あからさまな逃げの態度は失礼だと感じてしまったのだ。
 身体は湯の中だから、はっきりは見えないだろうという思いもあり、さりげなく胸だけを隠したが、その間にも竜崎の告白は続いていた。
 ほとんどが会社での愚痴だったが、おどおどとした態度や口調から、かなり卑屈な人物であることが改めて分かった。
 秋弘が「あまり拘わるな」と言った意味が、なんとなく理解できたような気がした。
 ──それにしても、なんで隠さないの、この人。
 視線を逸らさずこちらを見ているのも参るが、それ以上に自分の股間をまったく隠さないため、目のやり場に困ってしまう。彼の股間には当然のようにペニスがぶら下がっており、しかもムクリと半分ほど勃ち上がっているのだ。
 ──もしかして、私の裸を見て……?
 そう思うと、恥ずかしさがさらに増していくようだった。

「だ、だから……その……僕、明音さんに優しくしてもらって、すごく嬉しかったんです。いまだって、こんな僕から逃げずに受け入れてくれてるし……」
「えっ?」

 なんだか話の流れがおかしくて、明音は改めて竜崎の顔を見返した。
 彼の目はどんよりとして血走っている。呼吸が少しずつ荒くなってきて、肩が小刻みに震えている様子は、あきらかに普通とは違っていた。

「あの、竜崎さん……もしかして酔ってるの?」
「そうかもしれないね。まだ酔ってるのかも。だって、いつもならこんなふうに女の人と話すなんてこと、できないから……」
「……………………」

 他に誰もいない場所で、裸で男とふたりきり。
 羞恥心ばかりが先行していたが、この状況がかなり危険であることを思い知る。

「あの、私、先に失礼しますね」

 明音は竜崎に背中を向けたまま、そろそろと立ち上がった。露天風呂から出て、そのまま内風呂のほうへ向かおうとしたが──。

「逃げるなっ!」

 鋭い怒声を浴びせられ、思わずビクッと身をすくませてしまった。

「なんで……なんで逃げるんだよぉ……ぼ、僕に優しくしてくれたじゃないか」

 竜崎が鼻息を荒くしながら近付いてくる。酔った相手に理屈など通用しないが、明音は彼がなにに憤っているのかさっぱり分からなかった。

「……あ、あの竜崎さん、落ち着いて……」
「落ち着いてるよ! 明音さん、僕に優しかったろ? 部屋を間違えて、あんなところを見ても、怒らなかったし」
「あれは……騒ぎになるのはよくないと思って」
「へえ、騒ぎになると……こ、困るんだ?」
「竜崎さんだって困るでしょう? あんなところ、人に見られたら」
「僕は嫌われ者だから、いまさら困ったりするもんかっ」

 明音の諭すような言葉にも、竜崎は興奮を収めようとはしなかった。それどころかますますいきり立ったように声を荒らげていく。

「た、鷹取さんだって、僕の悪口を言ってるんじゃないのっ!?」
「……………………」

 そんなことはない──と言いかけて、言葉に詰まってしまう。
 秋弘から具体的な悪口を聞かされたことはなかったけれど、相手にするな、拘わるなと忠告されていたことは確かだ。

「ほ、ほらっ、やっぱり……!」

 わずかな沈黙を肯定と捉えたらしい。
 竜崎は怒りのためか、ブルブルと全身を震わせ始めた。

「いえ、違います、違うの。あの人は竜崎さんの悪口なんて……」

 明音は必死になって言葉を紡いだ。
 内風呂に戻るためには、竜崎の傍を通過しなければならない。そのためには、まず彼を宥め、落ち着かせる必要があったのだが──。

「じゃあさ、僕のチンコ握ってよ」

 竜崎が不意に信じられないことを言い出した。
 なにを言われたのか、すぐには理解できなかったほどだ。彼の様子が危険だとは思っていたが、まさかそんなあからさまな要求をしてくるとは思わなかった。

「竜崎さん……あなた、自分がなにを言っているのか、分かってるの?」
「分かってるよ。騒ぎになると困るんだよね?」

 情欲を剥き出しにした彼は、湯の中に入ってジリジリと近寄ってくる。
 明音は内風呂へと続く扉を見た。距離にするとわずか数メートルだが、竜崎が力に訴えて襲ってきたら、とても逃げきれる自信はない。

「ねぇ、チンコ擦ってよ……手コキだよ、手コキ。明音さんがそうしてくれたら、誰も悪口を言ってないって信じるからさ」

 言っていることが無茶苦茶だった。
 けれど、要求を呑まなければ、なにをされるか分かったものではない。必死になって打開策を考えたが、いまの竜崎にはなにを言っても無駄だろう。
 ──やるしかないの、本当に?
 近付いてくる竜崎のペニスに視線を向け、明音はゴクリと喉を鳴らした。
 とりあえずは要求に応じるフリをして、隙を突いて逃げ出すしかない──と結論づけ、彼の前に跪くと、恐る恐る股間へと手を伸ばしていく。

「……うおっ!?」

 明音がそっと肉棒に触れると、竜崎は感激したような声を漏らした。
 酒が入っているせいか──それとも風呂に入っていたからだろうか。彼のペニスはとても熱くて、軽く触れただけで火傷しそうに感じるほどだ。
 それがなんだかおぞましくも感じられ、明音は乱暴に手を動かしていった。

「き、気持ちいい……これが人妻のテクニック……自分でするのと、全然違う!」











 どうやら女性の手で扱かれるのは初めてらしい。
 雑な愛撫であるにも拘わらず、竜崎は心地よさそうに表情を緩ませていた。
 ──私、なにをしてるんだろう。
 公共の場である露天風呂で、夫ではない人物の男性器を握りしめている。
 自分のしていることが信じられなかった。
 だが、この状況から逃れるためには、彼を満足させる──射精させるしかない。一度出してしまえば落ち着きを取り戻すだろうし、逃げる隙もできるはずだ。
 そう考えて、改めて竜崎の肉棒を掴み直したのだが──。
 完全に勃起した彼のペニスは、明音の指では完全に包めないほど太かった。
 ──お、大きい……いえ、変なこと考えちゃダメ。
 反射的に秋弘のサイズと比べている自分に気付き、慌てて頭に浮かんだ思いを否定する。
 よけいなことを考えず、ただ射精させることだけに集中すればいい。
 必死になって手を動かしていくと、幸いなことに竜崎はかなり興奮しているらしく、先端からはすでに先走り液が滲み出していた。

「あぁ、あぁ、気持ちいいなぁ……あ、胸は隠さないで。ちゃんとおっぱいを見せてくれると早く終わるよ。明音さんもそのほうがいいでしょ?」
「……………………」

 さりげなく胸を隠そうとしていた明音は、仕方なく腕を下ろして乳房を晒した。
 自分から見せつけているようで嫌だったが、一刻も早くこの状況から逃れられるのなら、いまさら胸を見られるくらいどうということはない。

「ふうぅ……ち、乳首……明音さんの乳首。ねえ、やっぱり人妻ってスケベなのかな? 手付きがいやらしいよ。チンコ好きなの?」
「……べつに好きじゃないわ」
「着替え見られたとき、興奮した? もしかして、僕らにわざと見せたとか?」
「……そんなわけないでしょ。あれはただの事故よ」
「で、でも興奮はしたんじゃないの? ねえ、濡れたりした?」

 刺激しないよう適当に相槌を打っていたが、竜崎のいやらしい質問は執拗だった。

「ねえねえ、これまで何本くらいチンコ握ったの? うっ……ああっ、気持ちいい」
「へ、変な声……出さないでよ」

 無意識のうちに亀頭のエラを刺激すると、かなりの反応が返ってきた。どうやらその部分が弱いようだと察した明音は、重点的に責め立てていくことにした。
 言動からして彼は童貞なのだろう。
 それでも、ただ雑に動かしていたのでは、いつまで経っても射精しそうにない。

「んう……ああ……明音さん、僕のチンコ……どうかな?」

 必死になって手を動かしていると、竜崎が再び下品なことを訊いてきた。
 そんな質問をされても答えに困ってしまうのだが、彼の機嫌を損ねないためには、少しくらいリップサービスをしておいたほうがいいのかもしれない。

「その……結構、いい……んじゃないかしら」
「褒めるなら、ちゃんと褒めて欲しいんだけどな」

 おざなりの評価では満足しないようだ。

「どこが、どんなふうにいいのか、ちゃんと言ってくださいよ。ねえ」

 語気に力の籠もった竜崎の言葉には、あきらかに有無を言わせない響きがある。
 男が言葉でも興奮することを知っている明音は、仕方ないと覚悟を決めて口を開いた。

「指がまわらないぐらい太くて……それに石みたいに硬くて、熱くて……すごく立派な、オチンポ……だと思うわ」
「お、オチンポ……明音さんが、オチンポなんて……うっ、ううう……っ!」

 恥ずかしさをこらえて、わざといやらしい言葉を使った効果はあったようだ。
 手の中にある竜崎の肉棒がビクビクと跳ね上がる。興奮が彼の快感を後押ししているようだが、それでもまだ射精には至らない。

「ねえ……まだ出ないの?」
「はひ、はひっ……さっきから、すごく気持ちいいんだけど……あと一歩足りなくて」
「そ、そんなこと言われても」

 自分の性技に自信があるわけではないのだ。
 これ以上のことを要求されても、なにをどうすればいいのか分からない。

「おー、いいじゃないか露天風呂」

 再び引き戸の音がして、誰かが露天風呂にやって来た。その聞き覚えのある声に、明音はドキリと胸を高鳴らせた。

「……僕、まだ酒が残ってるんだけど」
「だらしないな、あの程度の酒で。もうすぐ男湯の時間は終わっちまうんだから、いまのうちに露天風呂を堪能しとこうぜ」

 入ってきたのは秋弘と昭興だった。
 ──なんでこんなときにっ!?
 夫は部屋で寝ていたのではなかったのだろうか。
 明音たちがいるのは大きな岩の影であり、こちらからも向こうからも互いに姿を見ることはできなかったが、声はすぐ近くから聞こえてくる。
 最悪のタイミングだ。もう少し早ければ助けを求められたのだが、いまの竜崎のペニスを握って扱いている姿など、とても夫や友人に見せるわけにはいかなかった。

「……鷹取先輩?」

 さすがの竜崎も声を潜める。
 見つかればただでは済まないと分かっているのだ──と、そう思っていたのだが、明音の手コキを受けて大胆になっていた彼は、これを好機と考えたらしい。

「明音さん……口でしてよ」
「えっ!? だって、手ですればいいって……」
「このままだと刺激が足りなくて出せないんだよ。僕、自分でオナニーしても時間がかかるほうだからさ。だから、フェラ……フェラチオしてよ」
「で、できるわけないでしょ! だって、すぐそこに夫がいるのよ?」

 明音は即座に拒絶を示した。

「うん、そうだね。いま助けを呼べば、鷹取先輩たちはこっちにくるよね。でも、それをしないってことは……明音さんも困るからじゃないの?」
「……っ」

 弱みにつけ込んだ彼の脅迫に、明音は思わず唇を噛む。
 どうして、自分がこんな目に遭わなければならないのだろうか。
 ──でも、秋弘にこんなところを見せられない。
 こんな男のペニスを扱いていたなど、決して知られるわけにはいかないのだ。
 すぐさま肉棒から手を放して助けを求めても、竜崎がなにを言い出すか分からない。
 他に誰もいない露天風呂に、ふたりだけでいたことは事実なのだ。
 このことが公になったら、秋弘の会社での立場はどうなるのだろう。明音はあくまでも被害者だが、噂になれば会社に居辛くなってしまう恐れがある。
 ──そんなの、絶対にダメ。
 これまでも夫を守るために色々と我慢してきたのだ。こんなことで、すべてを台無しにするわけにはいかない。

「……わ、分かった。するから……静かにしてて。バレちゃうから」

 屈辱に肩を震わせながら、明音は小さな声で竜崎にそう囁いた。

「なにをするのか、ちゃんと言ってからしてね。僕が言ったみたいにさ」
「く……っ」

 調子に乗る竜崎を張り倒してやりたい気分だったが、悔しさをこらえて彼に従う。

「フェラチオ、するわ。あなたのオチンポ……お口で食べてあげるわよ」
「ふひひっ、すごい興奮するなぁ」

 上擦った声に嫌悪感を覚えながらも、明音は竜崎のペニスに顔を寄せた。
 つんと鼻を突く気持ちの悪い悪臭。汗と小水とアルコールの入り混じった臭い。どうやらまともに身体も洗っていなかったようだ。
 ──最悪、こんな男のオチンチンを舐めるなんて……。
 嘔吐きそうになるのをこらえつつ、明音はゆっくりと肉棒に舌を這わせていった。








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