牝堕ち巨乳妻は俺のモノ
~負け組の俺が勝ち組の友人の美人妻を寝取る話~
2017年12月5日
オトナ文庫
著:シャア専用◎
画:タカスギコウ・相川亜利砂・リャオ
原作:ANIM
12月13日発売のオトナ文庫『牝堕ち巨乳妻は俺のモノ』のお試し版です!


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俺を見下していた友人たちの美しい妻を、全員寝取ってやるよ!
「ふぅ……」

 誰も待っていないアパートへ帰宅し、最初に出るのは「ただいま」の言葉ではなく、一日の疲労が籠った溜息だった。

 朝早くに家を出て、帰宅するのは日付が変わってから。だが働いているのは正規の仕事ではなく、いわゆる非正規のアルバイトだ。もちろんずっとフリーターだったというわけではなく、俺にもちゃんと正規の仕事をしていた時期がある。

 元々、高校を卒業するタイミングで県外の大学に進学し、その後は何とか一流と呼べる商社に入ることができた。仕事が合っていたのか、トントン拍子で課長にまで出世し、その当時に同棲していた彼女とは、結婚の話も出ていた。

 好事魔多しとはよく言ったもので、ライバル企業が俺の仕事に対して妨害工作をしてきたのは、まさにそんな時だった。
 全てが上手くいっていた俺は、たぶん完全に油断していたんだろう。俺の抱えていた取引先を、ライバル企業に根こそぎ奪い取られ、大きな損害を被ってしまった会社に、責任を取らされる形で退職せざるをえなくなってしまった。
 その妨害工作には色々と不審な点も多く、何らかの不正があったのではないかと疑い、自力でそれを暴こうとはしてみた。自分の仕事に対するプライドや、それまでに積み重ねてきた実績もあり、そうすることで会社に貢献することになり、ひいては自分自身の再評価に繋がると信じていたのだ。今にして思えば、それこそ考えが甘かったのだろう。
 いつの間にか双方の会社の上層部で話し合いが持たれたようで、気が付いた時には手打ちが行われてしまっていた。結果として俺はそれ以上、その一件に首を突っ込むことに対して釘を刺され、全て受け入れるようにと遠回しに通告された。
 結局、会社側から迫られるままに退職の書類にサインをし、口止め料を含んでいたんだろう、年齢には不相応な額の退職金を受け取り、そのまま俺は無職になった。
 後から社内の人間に聞いた話だと、どうやら俺が調べようとしていたことに、ライバル企業が口を挟んできたらしい。結果的に俺を退職させることが、両社間での手打ちの条件に加えられたんだろう。
 会社としても、ライバル企業の不正は疑っていたようだが、争うリスクよりも和解する道を選んだということだし、それを責めるつもりはない。
 もちろんライバル企業と自分の会社を相手取り、真実を争うという道もあったが、何も得るものはないと判断した。そもそも、双方の会社が抱える弁護士たちを相手にして、俺に勝ち目があるとも思えなかった。
 それよりも早く過去のことだと割り切って、新しい人生を歩みだした方が良いと、そう前向きに考えようとしたのだ。

 だが俺はそのことがきっかけで、大きな会社で働くということに対し、完全に意欲を失ってしまった。どんな会社でも心から信じることはできないし、信じればまた裏切られることになる。そんな悔しい思いは、もうしたくないと思ってしまった。
 もちろん彼女の存在があったから、何とか再就職だけはしようと努力はした。しかし、失ってしまった働くことへの意欲は、そう簡単に戻ることはなく、企業というものに対しても疑心暗鬼になってしまい、再就職も思うようには捗らなかった。
 かといって無職のままではいずれ退職金に手を付けることにもなり、流石にそれでは先細りになるばかりだと、とりあえずアルバイトとして働き始めたが、そんな俺のことを支えてくれるはずの彼女は、逆に愛想を尽かして去ってしまった。
 彼女も俺が一流企業の課長職だったからこそ、結婚を考えてくれていたのかもしれない。それがただのフリーターとなってしまえば、ともに将来を考える気にはならなくなってしまったんだろう。仕事と一緒に彼女まで失った俺の落胆は、筆舌に尽くしがたいものがあった。

「給料日まで、まだ半月もあるのか……」

 元々、性欲の強い方だった俺は彼女を失い、それを満たすために風俗へと通うようになった。バイトで稼ぐなけなしの金も、そのまま風俗へと消えていく日々。
 稼ぎのほとんどが風俗に消え、僅かな蓄えが減っていく中で精神的にも不安定になり、そんな暮らしが段々と嫌になって、俺は逃げるように地元へと戻ってきた。地元に戻れば何かが変わるんじゃないかという、そんな期待もあったと思う。
 だが、そんな戻り方をしている身では、実家に帰ることなどできようもない。俺が一流企業に就職したことを喜んでくれた両親に、今の惨めな姿を見られたくはなかった。
 もちろん両親は俺の現状を知ってはいたし、地元に戻ってきていることも把握してはいた。心配もしてくれているようだったが、俺の方から連絡を絶っている。
 今は地元の安アパートで暮らしながら、バイトで食い繋ぐような毎日だ。それでも風俗通いを止めることはできず、暮らしが上向くことはない。
 少ない給料を受け取って、その足で風俗店へと向かう。それだけが楽しみの人生に、いったいどんな意味があるんだろう。

「はぁ……またチラシとDMの山か」

 帰宅して確認した郵便受けに入っているのはそんなものばかりだ。こんな俺に案内などしても、何の意味もないというのに。
 だが、そんな紙屑の中に一枚だけ目に留まる物があった。

「同窓会……?」

 他とは違い、ちゃんと『秋津俊介様』と宛名の書かれたそれは、高校時代の同窓会の案内はがきだった。開催日時とともに、出欠を知らせるための往復はがきになっている。たぶん俺の両親から連絡先を聞いて、誰かが気を利かせて送ってきたのだろう。

「……」

 俺は学生時代にあまり良い思い出がない。明確に虐められていたというわけではないのかもしれないが、あるクラスメイトの三人から見下され、弄られまくっていたのだ。
 俺のことを『何もできない、ドジでダメな奴』とレッテルを貼り、そんな俺のことを見下すことで、ちっぽけな自尊心を満たすような連中だ。彼らにしてみれば、友達同士でじゃれ合っているような感覚だったのかもしれないが、俺にとっては苦痛以外の何物でもない。
 そんな三人に対しては良い印象を持ってはいないが、かといって嫌悪しているというほどでもない。進学して地元を離れ、新たな交友関係を作っていくうちに、記憶の中から薄らいでいたほどだ。
 一流企業に就職した頃には、連中のこともすっかり忘れて、仕事に追われる中で同窓会はいつも欠席。卒業してから誰とも顔を合わせていない。

「今更、奴らに会ったところで……」

 暫く前までの俺だったら、自信満々に凱旋気分で参加していただろう。しかし、こうも落ちぶれてしまった今では、どんな顔をして会えば良いのか。

「止めとくか……」

 行きたくないというのが、今の正直な気持ちだった。
 そもそも返事を出さずに無視しておけば、俺のことなど誰も思い出さないだろう。だがその瞬間、俺は一人の少女の顔を思い出して手を止めた。

「そういえば、彼女も同窓会に来るのかな……」

 それは三年間を通じて同じクラスだった、藤崎咲弥という少女のことだった。他の女子と比べて少し大人びていて、同学年に限らず男子生徒からの憧れの的のような存在で、俺もそんな彼女を密かに想う一人だった。
 偶然にも彼女とは同じ図書委員になり、それをきっかけにして何とか話しかけようとしたのだが、まともに会話することさえできず、告白なんて不可能なことだった。
 それでも三年間も同じ図書委員をしていれば、卒業前には軽く会話を交わせる程度の仲にはなり、俺はそんな関係で満足していたのだ。だが、そんな彼女とも卒業とともに疎遠になり、今はどうしているのかもわからない。

「……きっと綺麗になってるんだろうな、藤崎さん」

 あのまま成長を続けていれば、間違いなく魅力的な大人の女性になっているだろう。そう懐かしく思っていると、無性に彼女に会いたいという気持ちが膨らんできた。
 あの三人に会うのは嫌だったが、それ以上に大人になった藤崎さんに会いたいという、強い衝動が湧き上がってくる。

「まあ、あの三人もわざわざ話しかけてくることもないだろうし……」

 そもそも、三人が三人とも同窓会に参加するとは限らない。地元を離れてしまっていたら、同窓会のためだけにわざわざ帰省したりすることもない。
 俺はそう結論付けて、欠席に丸を付けかけていたボールペンの先を、出席の方へと向け直した。


(意外と来てるんだな……)
 同窓会の会場は、思っていた以上に人が集まっていた。
 久し振りに藤崎さんと会うとあって、俺は暫く風俗通いを止めて、今日ばかりは少し見栄を張っている。安物ではあるけれどスーツを新調し、理容室に行って髪を切り、それなりに小綺麗な身なりにしていた。

(これならフリーターには見えないだろう。それにしても、藤崎さんはどこだ……?)

 会場は地元でも有名なホテルの広間で、クラスごとに席が用意されていたが、まだ着席していない者も多いようだ。俺はその会場の中を歩きながら、藤崎さんの姿を探す。

「……」

 どうやら参加率がかなり高いらしく、俺も見知った顔が何人もいた。昔と変わらない奴もいれば、かなり変わってしまった奴もいる。そんな中でも、多少なりとも親しくしていた連中が、目敏く俺を見つけて話しかけてきた。

「あれ、秋津か? 珍しいな、来てたのか!」
「あ、ああ」
「お前ずっと同窓会に来てなかっただろ、気にしてたんだぞ」
「ごめんごめん、仕事が忙しくて都合がつかなくてさ」

 本当は同窓会など全く興味が湧かなかっただけだが、そう言って笑いながら誤魔化す。しかし立ち止まって話しながらも、俺の視線は会場の中を彷徨っていた。

(ひょっとして来てないのか? それとも、変わってしまって俺が気付かないのか……)

 藤崎さんと会う──それだけが楽しみで来ている俺としては、彼女の不参加だけは避けてほしい思いだった。

「お前、もしかして秋津か?」
「え?」

 藤崎さんの姿を捜し歩いていると、不意に背後から声をかけられ呼び止められる。

「本当だ、秋津君じゃないか!」
「秋津? なんだ、珍しい奴がいるもんだな」

 驚いて立ち止まると、他にも馴れ馴れしく声をかけてくる連中がいた。

(うわ、最悪だ……)

 それは俺が最も会いたくなかった三人組。青葉正義と霧島慎次、そして武村敏樹、学生時代に俺のことを見下し、弄り倒していた例の三人だった。

「久し振りだな、秋津!」
「あ、ああ……」
「ははは、お互いに老けたなぁ! 懐かしいね!」
「そ、そうだな……」

 最初に俺を呼び止めたのが青葉で、笑いながら話しかけてきた武村が、大きな手でバンバン肩を叩いてくる。こいつの力加減のできなさは、昔と全く変わらなかった。
 そのことに懐かしさよりも、うんざりするような気分になりつつ、もう一人の霧島を見る。

「何を言ってるんだ二人とも、まだそこまで懐かしむような歳でもないだろう」

 相変わらず一人だけ冷静で、どこか冷めた目で俺のことを見ていた。

「ははは、それもそうだな!」
「全くだ。俺たちはまだまだ、これからだからな」
「は、はは……」

 青葉と武村の二人は、懐かしそうな表情を浮かべて笑い合う。だが俺はそんな三人と話したいわけじゃなく、早く藤崎さんを探しに戻りたかった。それでも場の空気を悪くするのを躊躇い、嫌々ながらも三人に話を合わせて付き合う。

「そういえば秋津、お前って大学は県外だよな? 今はどうしてるんだ?」
「まあ、それなりにやってるよ……今はこっちに戻ってるんだ」
「へぇ、そうなのか」

 流石に本当のことは打ち明けられなかった。そんな話をしたら、何を言われるかわかったものじゃない。

(俺のことなんていいから、さっさとどこかへ行ってくれよ……)

 この三人を前にしているだけで、うんざりした気分になってくる。俺は早く藤崎さんを探したいというのに。

「しかし本当に久し振りだな。もう結婚とかしてるのか?」
「いや、まだ独り身だよ。そっちは?」
「俺たちは三人とも結婚してるよ」
「えっ、そうなのか?」

 それは軽い驚きだった。俺も最近まで結婚を考えたりはしていたが、まさかこの三人が全員、既に既婚者だったとは。
 結婚して家庭を持つということは、一つの成功の証のような気がしてしまう。三人とも結婚していると聞かされると、それだけで敗北感に似たようなものを味わわされてしまう。

「まあ、地元に残ったやつらは早々に結婚してるからな」
「昔から顔を合わせてる連中も多いし、付き合いが長くなってるのも多いしな」
「そ、そうなのか……」

 地元を離れることで、全ての人間関係をリセットさせた身としては、一抹の寂しさを覚えてしまう。三人が結婚して幸せな家庭を築いているのだと思うと、なぜ俺一人だけ寂しく独り者なのか、モヤモヤとした気持ちにさせられた。

「でもさ、たまに独身時代に戻りたいって思うこともあるよな」
「そうか? 俺は十分に幸せだけどな。美人の嫁さんももらったし、出来のいい息子もいるからな」
「ははは、結婚したばっかりで独身時代を懐かしんでちゃ駄目だろ」
「それもそうだな、ははっ」

 三人の話を聞いていると、どうやら青葉が最も最近、結婚したようだ。
 しかし、まるで俺に自慢しているかのように、自分たちがどれだけ幸せな結婚生活を送っているのか、アピールし合っているようにも思える。それを目の前で聞かされている俺は、苛立ちを抑えることができなかった。

(チッ……別にお前たちの惚気を聞きに来てるわけじゃないんだぞ!)

 俺だってあんなことがなければ、今頃は出世して彼女と結婚していたはずなのに。
 そんな気分になっていると、会場の入り口の方が少し賑やかになり、誰かが入ってくるのが見えた。どうやら女性らしく、その人を中心に人の輪が出来上がる。

(あれはっ……!)

 取り囲む人の隙間から見えた横顔に、俺の鼓動が大きく高鳴った。すっかり大人びているけれど、見間違えることはない。その端正な顔立ちは変わることなく、そのまま綺麗に歳を重ねて美しさを増したという感じだった。

(間違いない、あれは……あれは藤崎さんだ!!)

 さっきまでの鬱屈した気分は一瞬で綺麗に晴れ、俺の意識は藤崎さんに釘付けになる。その彼女は取り囲む人たちに挨拶をしながら、明らかにこちらに向かって歩いて来ていた。

(え……もしかして、俺のことを見つけてこっちに来てるんじゃ……!?)

 鼓動はどんどん高鳴り、心臓がバクバクと音を立てる。同時に緊張感が高まって、無意識に握り締めた手の平には、じっとりと汗が滲んでいた。
 だが、そんな緊張感を必死に押し殺し、微塵も感じさせないように冷静を装って、声が裏返らないように気を付けながら、何年か振りに藤崎さんに声をかけた。

「……やあ、藤崎さん。久し振り」

 すると藤崎さんは俺を見て、一瞬キョトンとした表情を浮かべた。

「…………あ、もしかして秋津君? 久し振りね、元気にしてた?」
「あ、うん……藤崎さんも元気そうで良かったよ」

 俺だと気付いてくれたのは嬉しかったが、それはつまり俺に気付いて歩み寄ってくれたわけではないということだ。声を聴けた嬉しさよりも、その寂しさの方が勝って、少しガッカリしてしまう。

(まあ、現実なんてそんなもんだよな……卒業して以降、一度も会ってないんだから、覚えていてくれただけでも喜ばないと)

 そう自分自身を慰めていると、藤崎さんは学生時代と変わらない微笑みを浮かべる。

「ふふ、でもほんとに懐かしいなぁ……秋津君ってば、同窓会とかの集まりにちっとも来てなかったでしょ? ちょっと心配してたのよ?」
「そ、そうなんだ……」

 もしかして、今まで俺のことを気にかけてくれていたんだろうか。少なくとも、俺が参加したことがないという事実は、把握してくれていたみたいだ。
 我ながら現金なもので、それだけでさっきまでの落ち込んだ気持ちが浮き上がる。この再会を機に以前のように──或いは以前以上に親しくなれるかもしれない。
 同じ図書委員にならなければ、話しかけることさえできなかった学生時代とは違う。今はフリーターの身だが、それなりの大学を卒業して一流企業に就職し、彼女だっていた。それに女性に触れたことさえなかったあの頃とは違うのだ。

「あ、あのさ……」

 緊張しながら思い切って話しかけようとした、その時だった。

「ごめんなさい、あなた。遅くなっちゃって」
(え……あ、あなた……?)

 もちろん彼女がそう呼びかけたのは、俺ではなかった。俺の肩越しに背後を見て、そう話しかけている。

「何かあったのか、咲弥?」
「うん、ちょっと用事が長引いちゃって」
「そうか」

 彼女に応えたのは青葉で、その会話はどう聞いても夫婦間のそれだった。

(え……ええ……!?)

 あまりにも予想外の状況に、頭の中が真っ白になりかける。それでも親し気に話している二人を前に、気を取り直して声をかける。

「えっと……藤崎さんと青葉って、その……もしかして……」
「あれ、言ってなかったか? 結婚したんだよ、俺達」
「そうなのよ、秋津君」

 まさかとは思ったが、藤崎さんが一緒になって頷く。

「結婚……」
「結婚はいいぞ、お前も早く相手を見つけろよ」

 そう言えばさっき、霧島と武村から結婚したばかりだと言われていた。気が付かなかったが、藤崎さんの指にも、結婚指輪が光っている。

(結婚……藤崎さんが、青葉と……結婚……)
「お前も結婚式には招待しようと思って実家に連絡したんだが、今は忙しくて連絡がつかないって言われてな」
「本当は来て欲しかったんだけど、残念だったわ」
「そ……そう、なんだ……」

 俺に連絡がつかない時期ということは、会社をクビになって彼女と別れた頃に、二人は結婚したということか。俺があんな思いをしている時に、藤崎さんは青葉なんかと一緒になっていたなんて。

「でも、こうして久し振りに会えて嬉しいわ。ねぇ、折角だからよければ今度、家に遊びに来ない? 霧島君や武村君も一緒に。どうかしら、正義さん?」

 藤崎さんが笑みを浮かべてそんなことを言っているが、俺の頭にはもう何も入って来てはいなかった。


「くそっ……! くそっ! くそっ!!」

 二次会への誘いを断って、俺は早々に安アパートへ帰宅した。幸せそうに青葉と話す姿なんて、見ているのは辛いだけだ。

「だけど……やっぱり綺麗だったな……」

 藤崎さん──いや、今は青葉と結婚しているのだから、青葉咲弥さんになるんだが、久し振りに見たその姿は、俺の思い出の中の印象のまま、女性として美しく成長していた。
 若ければ若いほど良いなんて言う奴もいるが、彼女については全く当てはまらない。当時の制服姿の彼女も綺麗だったが、今はそこに大人の色気も加わって、本当に息を飲むほどの美しさだった。
 でもそんな彼女はもう、青葉の妻だ。

「結婚してるってことは、もう……っ……」

 男子たちの憧れであり、俺の想い人でもあった彼女が、あんな男に抱かれているのかと思うと、頭の中がカッと熱くなる。考えたくはないが、でも想像してしまうと興奮する。

「もし……もしも彼女を、この部屋に連れ込めたら……」

 青葉なんかより俺の方が、もっと君のことを想っていると、そう伝えたい。そして思いの丈を伝えた後は、それを受け入れてくれた彼女と──。

「……いや、そんなことあるわけないか」

 どういう状況になれば、彼女をこんな汚い安アパートに連れ込めるというのか。それに俺がどれだけ想っていても、それが彼女に伝わるとも思えない。考えるだけ虚しくなるような妄想だった。

「もう寝るか……」

 明日もまた朝からバイトだ。ちゃんと正社員として働いている青葉とは違って、俺はしがないフリーター。俺なんかが望んではいけない相手なんだろう。
 何もかも嫌になってきて、俺は万年床の布団に潜り込み不貞寝した。


 あの同窓会に参加して俺が最も後悔していることは、咲弥さんの見ている手前、断り切れずに三人と連絡先の交換をしてしまったことだ。
 そしてそれ以降、頻繁に連絡が来るようになった。飲みに誘われるのだが、青葉の顔を見ると咲弥さんのことを思い出しそうで、色々と理由を付けて断っている。
 しかし今日もまた連絡があり、武村からしつこく食い下がられた挙句、青葉の家で飲むからと言われて、咲弥さんに会えるという誘惑に抗いきれなかった。

「……お邪魔します」
「いらっしゃい、秋津君。遠慮しないで上がって」
「うん、ありがとう。あ……これ、お土産」
「気を使わなくて良いのに。でも嬉しいわ、ありがとう」

 少し奮発した手土産を渡して、青葉の家へとお邪魔する。どうやら今回の誘いは、俺がなかなか誘いに乗らないのを聞きつけて、だったら自宅に招いたらどうかと提案してくれたらしい。その方が気軽に会えるだろうという、咲弥さんなりの気遣いなんだろう。

(相変わらず優しいんだな)

 青葉と結婚していたことはショックだったが、相変わらず綺麗で優しい咲弥さんに会えるのは、それはそれで嬉しいことだ。彼女の顔を見るだけで気持ちは上がるし、この再会をきっかけにして、俺自身も変わっていけそうな気がする。

「みんなもう集まってるのよ」
「あ、そうなんだ」

 リビングに通されると、家の主である青葉を中心に霧島と武村、そしてショートカットの女性が目に留まった。

「おお、やっと来たか! 誘っても誘っても、忙しいって断るんだよなぁ」
「すまん」
「こうして来てくれたんだから良いよ、ははは! そうだ、紹介してなかったよな。僕の嫁さんだ」
「初めまして、武村の妻の真琴です」

 そのショートカットの女性が、武村の奥さんということだった。ニッコリと微笑みながら挨拶をしてくれて、少し見惚れてしまう。

「……あ、はい。初めまして、秋津俊介です」

 咲弥さんとは少し違ったタイプだが、気さくそうな感じでとても好感が持てる。それに短い髪も良く似合っていて、結構な美人だった。

「そういえば霧島の奥さんは来てないのか?」

 武村の奥さんを紹介されたところで、霧島が一人なことに気付く。

「いや、それがさ……家に子供がいるから、夜は出歩けないんだよ。それにあいつは、こういう付き合いがちょっと苦手でな……」

 同窓会の席では散々自慢していたのだから、てっきり俺に見せつけるために連れてくると思ったのだが、ちょっと拍子抜けだ。
 でも確かに子供がいるのなら、あまり長時間家を空けるわけにもいかないし、この場に連れてきても退屈させるだけだろう。
 しかし、そう打ち明ける霧島の言葉は、どこか奥歯に物が挟まったような、何とも言えない微妙な感じがあった。
 するとそんな俺の耳元に、青葉がこっそりと囁いてくる。

「霧島の奥さんもちょっとキツそうなところがあるけど、かなりの美人なんだぞ」
「そ、そうなのか……会ったことがあるのか? って、結婚式に出てるんだよな」
「まあ、それもそうなんだけどな。実は彼女、俺と同じ会社に勤めてるんだよ。まあ、部署は全く違うんだけどさ」
「……っ!」

 青葉のそんな声が聞こえたのか、霧島が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。どうやら奥さんについて、何か思うところでもあるんだろう。
 少し気にはなったが、俺が突っ込んで尋ねたところで、場の空気を悪くするだけだ。それに、逆に俺の方へと矛先が向いてはたまらない。
 霧島の表情には気が付いていないフリをして、俺は無言を決め込んだ。

「お待たせ! 食事にしましょう」
「私と咲弥さんが、腕によりをかけて作ったんだから、感謝して食べてよね」

 するとそこへ、咲弥さんと真琴さんが料理を運んでくる。久し振りの手料理、しかも憧れの咲弥さんが作ってくれたものだ。それを食べられるのかと思うと、一気にテンションが上がってくる。

「じゃあ、いただきます! ぱくっ……もぐもぐ……うわっ、めちゃくちゃ美味しい!」

 早速、並べられた料理に箸を伸ばすと、お世辞でもなんでもなく本当に物凄く美味しかった。温かみのある手料理が久し振りということを差し引いても、二人の料理の味はかなりのものだ。
 それに比べて青葉たち三人は、食べるより飲む方がメインなのか、互いにグラスを傾け合っている。

「そう言ってもらえると嬉しいわ。秋津君、いっぱい食べてね」
「そうそう。向こうは酒の肴さえあれば良いんだから」
「そういうことなら遠慮なく……ぱく、ぱく、もぐもぐ……うん、本当に美味いよ」

 バイト代の多くを風俗につぎ込んでいる身としては、美人の手料理で腹を満たせるというのは最高だ。しかも、どれも本当に美味しい物ばかりとなれば、ここぞとばかりに食べるしかない。
 二人はそんな俺の食べっぷりをみて、嬉しそうに微笑んでいた。

「それは私が作ったんだけど、気に入ってもらえた?」
「あ、はい!」
「うふふ、良かった」

 真琴さんも少し打ち解けてきたのか、さっきよりも少し砕けた口調になる。なんだか奥さんというより、良いお母さんという印象だ。

「本当に美味しいものばかりで、二人とも料理上手なんですね」
「そんな……これくらいは普通に……」
「あはは、本当にお上手なんだから。ほらほら、もっといっぱい食べてね! 残ったら詰めてあげるから」
「はい、ありがとうございます」

 腹いっぱいに美人の手料理を食べ、しかも話し相手までしてくれる。久し振りにいい気分になっていると、そこに青葉が横やりを入れてきた。

「お前も早くいい奥さん貰って、自分の奥さんに美味しい手料理を作ってもらえよ」
「ははは、そうだよな~!」
「まあ、結婚できるならその方が良いだろうな」

 悪気はないのかもしれないが、他の二人も青葉の言葉に相槌を打つ。改めて俺以外は既婚者なのだと思うと、少しいたたまれない気持ちだった。

「そういえば俺たちの話ばかりだが、お前は最近どうなんだ?」

 ふと霧島がそう尋ねてくる。俺としてはできれば話題にして欲しくはなかった。

「そ、そうだったか? まあ、俺のことなんて別に……」
「確かにそうだな。いつの間に地元に戻ってきていたんだ?」

 適当に誤魔化そうとする俺の気も知らずに、青葉まで話に乗ってくる。こうなってくると本当に厄介だ。
 三人が三人とも、俺の答えを求めるように視線を向けてくる。そして咲弥さんや真琴さんまでもが、それとなく俺たちの話に耳を傾けていた。

「いや、まあ……その、色々とあってさ……」
「こっちでは何の仕事をしてるんだい?」

 俺が言葉を濁しているのだから、それで察してくれれば良いものを、武村が空気を読まずに聞いてくる。

「えっと……まあ、それは……」

 一気に脂汗が噴き出してきて、背中がぐっしょりと濡れる。手の平にも汗が滲んで、焦りと緊張で鼓動が高鳴り始めていた。

「まさか……無職ってことはないよな?」
「ぅ……ちゃ、ちゃんと働いてるよ、一応……」
「もしかしてフリーターとか、そういうのなのか?」

 霧島の問いかけを否定していると、青葉がズバリと核心をついてきた。
 咄嗟に誤魔化さなければと思ったのだが、動揺していて思うように言葉が出てこない。

「おいおい、まさか本当にフリーターなのか?」
「い……いや、その……リストラ、されちゃって……も、もちろん、就職先は探してるんだけど……は、はは……」

 今まで生きてきた中で、最高に惨めな気分だった。憧れていた咲弥さんの目の前で、こんなことを打ち明けさせられるなんて。
 当たり前のようにその場の空気は重くなり、気まずい雰囲気になってしまう。

「……今は色々と大変だものね」

 そんな空気を感じ取ったのか、咲弥さんがフォローするようにそう言ってくれた。だが俺からしてみれば、まるで憐れみを向けられたような気になってしまう。

(さ、咲弥さんに……っ……)

 人生最高だと思った惨めな気分が、あっさりとその記録を更新した。折角、美人二人の手料理が食べられて、色々と気分も盛り上がっていたのに、青葉たちのせいで台無しだ。

「でもフリーターっていっても、引きこもりのニートなんかとは違うんでしょ? なら別に良いじゃない、人生これからよ。それより、お酒の席なんだからもっと明るい話にしましょうよ」

 すると今度は真琴さんが、明るい口調でそう言ってくれた。ちょっと豪快とすら感じられるその一言で、場の空気が一変してしまう。

「それもそうだな」
「ははっ、久し振りに会ったんだしね!」

 青葉と武村はその言葉に同意し、霧島も無言ではあったが頷いていた。

(凄いな……)
「そうそう、今日は鶏肉が安かったから唐揚げにしてみたんだけど、味の方はどう?」
「うん、いい味してる。酒のつまみにはピッタリだよ」
「そうだな、揚げ物は酒が進むよ」

 そう言いながら青葉と武村が唐揚げに箸を伸ばす。それにつられるようにして、俺も唐揚げをつまみに酒を呷った。
 こういう時は、さっさと酔っぱらってしまった方が良い。多少のことは気にならなくなるし、何よりただ酒なのだから。

「本当に美味い唐揚げだね、衣はカリっとしてるのに、中は凄くジューシーで。もぐもぐ……ごく……」
「コツがあるのよ、ね? 咲弥さん」
「ええ、そうなのよ。ふふふ」

 やっぱり二人とも人妻なだけあって、料理については手馴れているんだろうな。二人の手料理は美味しいが、俺だけが独り者なのだと改めて感じてしまい、少しだけ酔い難い気分だった。
 するとそこで、リビングにあった電話が鳴る。

「咲弥、電話に出てくれないか」
「ええ、わかったわ。ちょっとごめんなさいね」

 青葉が当たり前のように亭主面をして言うと、咲弥さんもそれを当然のように受け止める。改めて二人は夫婦なのだと見せつけられたような感じだ。

「……あなた、ちょっとお義母さんの所に行ってくるわね」
「母さんから? 急ぎの用なら仕方ないかな……悪いけど頼むよ」

 暫く電話していた咲弥さんが、戻ってきて青葉に小声でそう告げる。どうやら今の電話は、青葉の実家からだったようだ。

「おつまみは全部用意してあるし、お酒は冷蔵庫で冷やしてるから、足りなくなったらお願いね」
「ああ、わかったよ」
「ごめんなさい、ちょっと用事ができちゃったから、先に抜けさせてもらうわね……みなさんは気にしないで、ゆっくりしていってね」

 咲弥さんは申し訳なさそうに頭を下げると、いそいそと出かけてしまう。結婚すると旦那の実家から呼びつけられたりもするなんて、咲弥さんも色々と大変なんだな。
 その後は何となく俺は一人で酒を飲み、青葉たち三人だけが話して盛り上がる。流石に楽しくない状況だったが、それを表には出さずに愛想笑いと適当な相槌だけを繰り返した。
 そうしているうちに、真琴さんが酔い潰れてしまったのか、ソファに座ったままで舟を漕ぎ始めていた。

「真琴さん……?」
「ああ、うちの嫁さんは酒があんまり強くなくってさ……」
「疲れもあるだろうし、寝かせておいてやれよ。ここからは男だけの飲み会ってことで」
「……そうだね」

 俺としては余計に楽しくなくなりそうだが、かといって否定するわけにもいかない。咲弥さんと真琴さんの手料理だけが、せめてもの救いという感じだった。
 そう思いながらチビチビと飲み続けていると、話が途切れたタイミングで青葉が話しかけてくる。

「そうだ、秋津。これ俺の名刺な。良かったら俺の伝手で就職先を探してやるよ。いつまでもフリーターってわけにもいかないだろ?」
「そ、そう……悪いな」

 完全に上から目線だが、それを断ることもできない。俺は内心の苛立ちを隠して愛想笑いを浮かべ、差し出された名刺を有難く受け取った──が、それを見て驚く。

(こ、これって……!?)

 名刺に書かれた社名と肩書に、鼓動が一気に早鐘のように高鳴っていく。

「お、おい……どうかしたのか? 顔色が悪いぞ、飲み過ぎたか?」

 そんな俺の様子を見て、青葉が少し心配そうに声をかけてくる。どうやら俺の表情からは、すっかり血の気が引いてしまっていたようだ。

「あ……い、いや……その、まさかこんな大企業だったとは思わなくて、ちょっとビックリしちゃってさ」
「まあ、お前から見たら絶対に手の届かない企業だからな、ははは」
「おいおい霧島君、それは酷いだろ~!」

 霧島の言葉をきっかけにして三人が笑い合う。しかし、俺の耳にはもう三人の言葉が届くことはなく、意識は手元の名刺に集中していた。

「それにしても、青葉君は本当に凄いよなぁ。僕らの中じゃ、一番の出世頭だよ。秋津君もそう思うよね?」
「え……あ、ああ……うん、そうだね……」
「いや、ちょっと運が良かっただけだよ。ちょっとしたマヌケのおかげかな」
「マヌケ……?」

 運が良いくらいで、こんな大企業に入れたりするものか。俺だって血の滲むような努力の末に、あの会社に就職したというのに。

「そのマヌケのおかげで俺は功績を上げて、社内での評価も上がったんだよ。だから感謝してるかな、そのマヌケには」
「なんだよ、その話……」

 軽い苛立ちもあって詰め寄ると、酔っている青葉は気分良さそうに話してくれる。

「いや実は俺の関わってたプロジェクトでさ、ライバル企業を出し抜いて取引先を根こそぎ奪ってやったんだよ」
「え……」

 そこから聞かされた話は、どこかで聞いたことのあるものだった。渡された名刺に書かれたライバル企業の名前、そして取引先を根こそぎ奪われた話。全てが俺の身に起こった出来事と一致する。

「そのライバル企業の担当者がクレームを付けてきたんだが、別に法に触れるようなことはしてないし、当然のように門前払いさ」
「はは、何度聞いても惨めな奴だな! 会って顔を拝んでやれば良かったのにな」
「いや、流石にそれはな……ほら、顔を覚えられて逆恨みでもされたら困るだろ?」
「……」

 楽しそうに話す三人の会話を、俺は必死に感情を押し殺して聞いていた。


「くそっ……あいつが……あいつがあの会社に……! あいつが何もかも……!」

 さっきの話を聞く限り、間違いなくあの時の担当者は青葉だ。
 俺の人生を滅茶苦茶にした挙句、咲弥さんと結婚までして、虹色のような人生を送っているのだ。俺が手に入れるはずのものを、青葉が全て手に入れているのが腹立たしい。

「しかも、揃いも揃って俺のことを見下しやがって……!」

 あいつらだって何か一つ間違えば、俺のような目に遭っても不思議じゃない。

(どうして俺だけがこんなことに……)

 どうせ今もあの三人は飲みながら、俺のことを笑いものにしているんだろう。青葉の出世の踏台になった、どこの誰だかわからないマヌケの話を。

「くっ……!!」

 何とかして思い知らせてやりたい。
 霧島や武村もそうだが、特に青葉の奴には絶対に俺以上の辛い思いをさせたい。血の涙を流すくらいの思いを。

(でも、人生の勝ち組な連中に、いったい何をどうしたら……)

 その時、俺の脳裏に浮かんだのは、咲弥さんと真琴さんという二人の人妻だった。それは天啓と言っても良いものだったかもしれない。

(そうだ……あいつらの奥さんを、自慢の嫁さんを……俺が寝取ってやるっていうのは……どうだ?)

 まだアルコールの残った頭で考える、下らない妄想かもしれない。しかし実際に考え始めると、色々な光景が思い浮かぶ。

(俺が真琴さんを……咲弥さんを……っ……)

 想像するだけで熱く昂ってくるものがあった。
 まだ会ったことはないが、きっと霧島の奥さんも美人なんだろう。それを思うとさらに気持ちは昂る。

「……よし、やるか」

 俺があの三人の奥さんを奪うなんて、そんなことが本当に可能なのかどうか、可能性に賭けてみるだけの価値はありそうだ。なにしろその賭けに勝つことで得られるのは、あの三人に対する報復と、三人の美人妻なのだから。

   ◇   ◇   ◇

 三人の妻を奪い取るとはいっても、具体的にどう行動するのかが問題だ。咲弥さんはともかく、真琴さんはこの前の飲み会が初対面だし、霧島の奥さんについてはまだ会ったことがないし、名前すら知らない。

「うーん……とりあえず、武村から探りを入れてみるか」

 あの三人の中では、それほど俺のことを見下していない。奥さんの真琴さんも人当たりが良かったし、俺の方から接触を図るのに最も敷居が低い。

「……あ、も……もしもし、武村?」
「秋津君? 珍しいね、君から連絡してくるなんて。どうかしたの?」
「えっと……ちょっと時間が空いたから、昼飯でもどうかなと思ってさ」

 確か武村の職場だったら、俺の家からでもそう遠くはない。夜だと他の二人も誘われてしまうかもしれないが、昼休みであれば二人で会うこともできるだろう。

「ああ、いいね。じゃあ、あと三十分したら昼休みだから、どこかで飯でも食おうか?」
「ありがとう。じゃあ、その頃にまた連絡するよ」
「うん。それじゃあ、また後で」

 武村と昼飯を食う約束を取り付け、電話を切って息を吐く。自分で思っていた以上に緊張していたのか、電話を持つ手に汗が滲んでいた。
 だが、これで最初の一歩を踏み出すことはできた。後は実際に武村と話をして、奥さんに関する情報を引き出そう。
 たぶん今の電話よりもっと緊張するとは思うが、と同時に妙な高揚感も湧き上がってくる。いよいよ俺はあの三人へ思い知らせることができるのだ。

「……よし」

 俺は気合を入れて、武村の勤め先の近くへと向かった。


「ごめん、ごめん。ちょっと仕事が長引いちゃってさ」

 会社近くで電話をして待っていると、暫くして武村が小走りで現れた。

「いや、俺なら大丈夫だよ」
「それじゃあ、何を食べようか? このあたりだと……」

 武村は食道楽でもあるのか、会社近くの飲食店に詳しそうだ。そんな武村のおすすめの定食屋へ向かい、一緒に昼食を取りながら話をする。
 最初のうちはこの前の飲み会だったり、仕事の話に終始していたのだが、徐々に武村の家庭についての話へと誘導していく。

「武村は休みの日とか、何をしてるんだ?」
「僕? 家でゴロゴロしてることが多いかな、最近は」
「奥さんと出かけたりしないのか?」
「実はうちの奥さん、ママさんバレーに夢中でね。土日はそっちの練習や試合で、ほとんど家にいないんだよ」
「へぇ……」

 これは面白いことを聞いた。そのバレーの時であれば、どうやら武村はバレーに付き合ってはいないようだし、武村の目を盗んで真琴さんに接触することができる。

「だから休みの日だって、僕のことなんてほったらかしさ」
「一緒に運動とかしないのか?」
「体を動かすのは嫌いじゃないんだけど、真琴と違って僕は運動神経が良くないから」

 そう言って武村は笑っていた。
 確かに武村はちょっと鈍そうなところがある。だからこそ、俺も最初の相手に選んだのだが。

「じゃあ、僕はそろそろ仕事に戻るよ」
「ああ、急に連絡して悪かったね。また飲みに行こう」
「そうだね。青葉君たちも誘って、昔の話でもしたいな」

 俺はもう思い出したくもないが、連中にとっては懐かしい思い出なんだろう。どうせまた俺のことを小馬鹿にして、酒の肴にでもするつもりに違いない。

(人を見下して飲む酒は、さぞや美味かろうよ……だが、覚えてろよ)

 お前たちが大切にしている存在を、馬鹿にされ続けた俺が奪い取ってやる。
 店を出て武村と別れてから、俺は改めてそう強く決意していた。


(ここだよな……)

 ネットで調べたところ、武村の奥さんが参加しているバレーチームは、地元のスポーツセンターの体育館を利用しているらしかった。敷地内にはスポーツジムもあったりして、市民が便利に利用しているらしい。

(体育館ホールは……あれか)

 近付いていくと少しだけ歓声のようなものが聞こえてくる。どうやら練習か試合の真っ最中のようだった。
 体育館ホールは誰でも立ち入れるようになっていて、中ではママさんたちが真剣にバレーの練習に励んでいる。

(えっと、真琴さんは…………いたいた)

 その中に真琴さんの姿もあり、他のママさんたちとボールを追っていた。真剣に練習しているせいか、この前とは少し印象が異なる。
 たぶん格好がバレーチームのユニフォームだということも関係しているだろう。

(練習の時からユニフォームなのか……それに、あんな表情もするんだな)

 明るく笑っていた表情が印象的だったが、真剣な表情や額に浮かんだ汗も、活動的な感じがして悪くない。俺はそんな真琴さんの練習風景を眺めつつ、それが終わるのを待つことにした。

「お疲れさまー。また来週ね」

 体育館ホールの外で暫く待っていると、練習を終えた真琴さんたちが出てきた。しっかりと体を動かして汗を流したせいか、スッキリとした表情をしている。
 そんな真琴さんが他のママさんと別れて、一人になって歩き出したところで、俺は偶然を装って近付いた。

「……あれ、武村の奥さん?」
「え? あら、秋津さん! どうしたんですか、こんな所で」
「いや、最近ちょっと運動不足だったんで、ちょっと運動でもしようかと思って」
「ああ、そうだったんですか。ここのジムだったら、格安で利用できますもんね」
「そうなんです。フリーターの身には、高いスポーツジムはちょっと」

 かなり緊張していたが、何とかさりげなく話しかけることができた。真琴さんも俺の話を疑いもせず、納得した様子で聞いてくれている。

「でもやっぱり、あんまり運動とかしたことがないんで、どうしたら良いのかわからなくて……」
「あー……それはあるかもしれませんねぇ。んー……最初はもっと手軽なことから始めると良いのかも?」
「手軽なことですか?」
「ええ。近所の散歩とか、あとはランニングとか……あ、私もやってるんですよ」

 そう言って走るような真似をしてみせる。ひょっとしたら、これが良い取っかかりになるんじゃないだろうか。このチャンスを逃す手はない。

「ランニングかぁ……でも慣れないと、走るのも難しいんじゃ……」
「そんなことないですよ。でも、最初は誰かが一緒の方が良いかも……」

 流石に彼女の方から誘ってはくれないか。そうしてくれたら、色々と楽に展開させられたのだが。

「そうですよねぇ……」

 仕方なく他に相手がいないという雰囲気を匂わせ、それとなく誘いをかけてみる。空気が読める相手なら、たぶん気付いてくれるだろう。

「あー……良かったら、ご一緒しましょうか?」

 少し躊躇いがちに真琴さんがそう言ってくれた瞬間、俺は内心でガッツポーズをしていた。

「いいんですか? そうしてもらえると助かります! いやぁ、他にお願いできそうな人がいなくて」
「独学よりは経験者が一緒の方が良いですし、暫くお付き合いしますよ」
「ありがとうございます、えっと……真琴さん」
「いえいえ、どうせ私も走ったりしてますから」

 それとなく名前を呼んでみたが、あまり気にした様子はない。たぶん青葉や霧島からも名前で呼ばれたりしているんだろう。

「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」

 一緒にランニングする約束を取り付けて、俺はその場で真琴さんと別れた。
 とりあえず第一関門はクリアしたが、ここから先は失敗が絶対に許されない。一歩間違えば、俺の人生は完全に終わってしまうだろう。
 慎重に慎重を重ねて、何とかして付け入る隙を見つけなければ。


「おはようございます、真琴さん」
「あ、おはようございますー」

 ランニングに使っているという、彼女の家の近くの公園へと足を運んだ。早朝ということもあって人は少ないが、それでも何人かランニングや散歩をしている人の姿がある。
 真琴さんはスパッツにTシャツという姿で、俺のことを待ってくれていた。

「こんな時間でも、意外と人がいるんですね」
「そうですね。やっぱり朝から体を動かすと、一日気持ちよく過ごせるから」
「なるほど」
「それじゃあ、軽くストレッチをしたら走りましょうか?」

 真琴さんに教えてもらいながらストレッチをすると、それだけで固い体が悲鳴を上げてしまう。運動不足だというのは事実だし、折角だから本当にトレーニングに付き合ってもらうのも良いかもしれないな。

「だいたい、いつもこの公園の外周を三周ぐらい走ってるんです。5キロから6キロぐらいかな?」
「そうなんですね……ぜー……ぜー……」

 一緒に並んで走っているのだが、真琴さんは実に平然とした様子だ。俺の方は完全に息が上がってしまっているというのに。
 毎日のランニングと週末のバレーの練習で、しっかりと体を動かしている真琴さんと、バイトの仕事以外では全く体を動かさない俺との差が、如実に表れていた。

「最初は辛いと思いますけど、すぐに体が慣れてきますよ」
「はぁ、はぁ……そ、そういうものなんですか……?」
「途中で諦めたりしなければ、ですけどね」

 真琴さんは本当に余裕そうだ。これでは一緒に走るだけで精一杯で、付け入る隙を窺うどころじゃない。

(い、息が切れて……話すのも、大変だ……!)

 俺の体が鈍っているというよりも、きっと真琴さんが鍛えられ過ぎているんだろう。
 横目で見ていても、走っている時のフォームも綺麗だし、呼吸も多少は弾んでいるが、一定のリズムで落ち着いている。しかし俺の目に留まったのは、その走るリズムに合わせて揺れる、大きな胸だった。

(す、凄いな……)

 ノーブラじゃないとは思うのだが、物凄い勢いで上下に弾んでいる。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 それを見続けていたくて、俺は必死になって真琴さんと並走し続けた。

「大丈夫ですか? 無理しない方が……ペース落とします?」
「い、いえっ……この、ままでっ……だいじょうぶっ……かはっ……!」

 正直に言えばもう限界だ。運動不足の体に、このペースのランニングは正直堪える。しかしペースを落としてしまったら、胸の揺れが収まってしまうかもしれない。

(どうせなら、もっと激しくっ……!)

 白いシャツの下で揺れる胸が、ブラを弾き飛ばすくらいまで弾めば良いのに。そんなことを考えながら走っていると、ついつい興奮して勃起してしまっていた。
 自然に少し前屈みになってしまって走り難いが、ここで走るのを止めてしまうわけにはいかない。しかし無理して走っていると、真琴さんがチラチラと横目で俺の方を見ていることに気が付いた。
 心なしか頬も赤く染まっていて、その視線は俺の顔ではなく、下半身の方へと向けられている気がする。

(胸ばかり見ていて気が付かなかったけど、ひょっとして……)

 俺の勃起に気が付いているんだろうか。でもその横顔を見ていると、あまり嫌そうにはしていない。

(欲求不満とか……? いや、でも倦怠期って感じでもないしな)

 武村との夫婦生活が、あまり上手くいっていないんだろうか。この前の青葉家での飲み会の様子からすると、そんな雰囲気は感じられなかったのだが。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……きょ、今日は、これくらいに……」
「はぁ……はぁ……そうですね、初日から無理するのは、良くないですもんね」

 流石に息切れが激しくなってきて、限界を感じて足を止める。もう少し真琴さんの様子を窺いたかったが、今日もこの後はバイトがあるのだ、無理はできない。

「はぁ、はぁ……あの、明日からもお願いしても良いですか……?」

 乱れた呼吸を整えながら、探りを入れるように尋ねてみる。俺の勃起に嫌悪感を抱いているのなら、それとなく断ってくるか躊躇うだろう。

「はぁ……はぁ……もちろん構いませんよ。この時間でしたら、ほぼ毎朝走ってますし」
「……そうですか、じゃあ明日も来ます。体が動けば、ですけど」
「ふふっ、明日は筋肉痛かもしれませんね」

 真琴さんの様子からすると、これなら大丈夫そうだ。明日からも一緒にトレーニングを続けて、距離を縮めていってみよう。

(まあ、最初の取っかかりとしては十分だな……)


 翌日、かなりの筋肉痛で起き上がるのも辛かった。それでも必死に這うようにして真琴さんの元へと向かい、軽くマッサージなんかもしてもらったりした。
 無理して続けた効果が徐々に表れてきているのか、数日も続けると筋肉痛も収まっていって、ランニングも真琴さんのペースについていけるようにはなった。

「はぁ、はぁ……かなり走れるようになってきましたね」
「はぁっ……はぁっ……そう、ですか? でも、まだまだ息が……はぁっ……」

 ランニングを終えた後の呼吸の乱れ方で、まだまだ真琴さんとは差がある。しかし長く運動なんてしていなかったのだから、そう簡単に追いついたりはしないか。

「秋津さんもまだまだ若いんですから、どんどん鍛えていけば大丈夫ですよ」
「そうだと良いんですけどね……ふぅ、それじゃあ……」
「あ、そうだ。良かったらこの後、家で朝食とかどうですか?」
「……良いんですか?」

 そう誘われたのは、一緒にトレーニングを続けて一週間以上が経った日のことだった。
 俺のトレーニングが三日坊主で終わらなかったこともあり、より打ち解けてくれたのかもしれない。

「ええ。一人で食べるのも、ちょっと寂しいですし」
「あれ、武村は?」
「夫は出勤が早くて、朝食の支度を先に済ませてから、トレーニングしてるんです」
「そうだったんですか……えっと、じゃあ……お言葉に甘えて」

 旦那のいない家に招いてくれるということは、あまり警戒していないという証拠だ。頑張ってきた甲斐もあってか、随分と距離が縮んでいるのかもしれないな。

「お邪魔します」
「すみません、シャワーだけ浴びてきますから、待っていてください」
「わかりました」

 俺の方も汗臭いんだが、大丈夫なんだろうか。そんなことを思いながら、ダイニングで真琴さんの戻りを待つ。

(さてと、チャンスだな……)

 シャワーの音が聞こえてくるのを確かめてから、軽く家の中を確認する。チャンスが訪れた時のためにと、荷物の中にはタオル等に紛れさせて盗聴器が隠してある。
 これを武村の家に設置しておけば、何かしらの情報を得られるかもしれない。

(できれば寝室に仕掛けたいが……うーん)

 用意できた盗聴器の数は多くはない。これから青葉や霧島の家にも仕掛けることを考えると、設置場所は慎重に選ばなければ。

「お待たせしました。すぐに支度しますから、良かったら秋津さんもシャワー浴びたらどうですか?」
「良いんですか? 汗臭いままっていうのも何だし、お借りします」

 これで一ヵ所は脱衣所に決まったな。
 シャワーの方は早々に済ませて、脱衣所の方に盗聴器を仕掛けておく。そしてダイニングへと戻る途中で、寝室の場所だけは確認しておいた。

(やっぱり夫婦の会話を聞くなら、寝室が一番だな)

 そう段取りを考えながら、真琴さんの用意してくれた朝食を取る。そういえばこの前の飲み会以来の手料理だな。

「いただきます。朝から豪勢ですね」
「夫が朝から食べる方だから、つい用意し過ぎちゃうんですよね。たくさん食べてくださいね、秋津さん」
「ありがとうございます」

 真琴さんの手料理はやっぱり美味かった。こんな手料理を朝から食べられるなんて、素直に武村が羨ましい。

(いずれ俺のためだけに、作ってもらえるようにしてやる……)

 そのためにもしっかりと探りを入れて、真琴さんを奪ってやらなければ。

「……すみません、ちょっとお手洗いへ」
「はい。コーヒーでも入れておきますね」

 朝食を美味しく食べ終えたところで、トイレに立つフリをして急いで寝室へ向かう。盗聴器を設置しておくのは、ベッドに隠れたコンセントにしておいた。

(これで良し……)

 後は夜にでも、この盗聴器の音声を確かめてみよう。

「ごちそうさまでした。やっぱり料理上手なんですね、凄く美味しかったです」
「ふふっ。良かったらまた食べに来てくださいね」
「はい、ありがとうございました」

 これからパートに出るという真琴さんに、しっかりと朝食のお礼を言って別れる。俺もこれからバイトの時間だ。


 その日の夜、昂る気持ちを抑えながら、俺は盗聴器の音声を確認した。他愛もない夫婦の会話が断続的に続き、やがてそろそろ寝ようとなった時、真琴さんの方から武村を誘う声が聞こえた。

「ねえ、敏樹……」
「んー? ああ……ごめん、明日ちょっと早いんだよ」
「そうなの……?」

 明らかに求めている真琴さんに対して、武村の反応は素っ気ない。

(明日は平日で仕事もあるからな……)

 これが週末で休み前とかなら別だろうが、今度は真琴さんの方がバレーの練習や試合があって、早く寝てしまったりしているんだろう。
 ランニング中に勃起した俺の股間をチラ見している様子からも、真琴さんが欲求不満気味なのは間違いない。盗聴の音声から、その理由が垣間見えたような気がした。

(すれ違ってるのかもしれないぞ、これは)

 まだそれほど大きなすれ違いとは言えないが、付け入る隙にはなるだろう。
 その後も何日か盗聴してみたが、二人の間に性交渉があった気配はなく、かなり回数は少なくなっているようだ。

(よし、そこに付け入ってみるか)

 本当に欲求不満なのだとしたら、きっとチャンスがあるだろう。俺はまずそこから、行動に移してみることにした。


「ふぅ……今日もごちそうさまでした」
「いえいえ、お粗末さまでした」

 後日、またトレーニングの後で朝食をご馳走になり、食後のコーヒーを飲みながら、それとなく話を向ける。

「……走るのには慣れてきましたけど、やっぱり俺って体が固いんですかね」
「あー……そうかもしれませんね」
「真琴さんのストレッチとか見てると、凄く柔らかいですもんね。何かコツとかあるんですか?」
「やっぱりできるだけ毎日、しっかりと柔軟体操することかしら? 良かったら教えましょうか?」

 すると呆気なく乗ってくれた。これまでの付き合いから、相談すれば必ずそれに応えようとしてくれるのは、もうわかっていた。

(そういう性格なんだろうな、面倒見も良さそうだし)

 子供でも生まれれば良い母親になりそうだが、今のところ武村との間にその気配は感じられなかった。

「ありがとうございます。じゃあ、明日のトレーニングの時にでも」
「そうですね」

 そう約束を取り付けて、俺は内心でほくそ笑んでいた。ここまでは全て、俺の思い通りに運んでいる。

(欲求不満なのはもうわかってるんだ、後はそれを刺激してやればたぶん……)

 何かしらの反応を見せてくれるだろう。後はそこにつけ込んで、何かしらの関係を持てれば良い。
 或いは真琴さんの欲求不満をさらに刺激することができれば、武村との間で夫婦間のすれ違いがさらに進むだろう。そうなれば俺としても、色々と行動の選択肢が増えると思う。
 コーヒーを飲み干しながら、俺は明日について色々と考えを巡らせていた。


「おはようございます。今日もよろしくお願いします、真琴さん」
「おはようございます、秋津さん。じゃあ、行きましょうか」
「はい」

 いつものように待ち合わせて、軽いストレッチの後に走り出す。俺の方も随分と体が動くようにはなってきていて、最初の頃に比べると息も上がらなくなってきた。
 そのおかげで走っている最中も、並走する真琴さんの様子をしっかりと観察できる。相変わらず胸が大きく揺れていて、まるで俺を誘っているかのようだ。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
「はっ……はっ……はっ……」

 向こうも勃起した俺の股間をチラ見していて、お互いに無言で走り続ける。
 ここ暫くの性交渉がないことは盗聴で確認済みだし、スポーツで全て発散しているというわけでもなければ、それなりに欲求不満が溜まってきているはずだ。

「はぁ、はぁ……ふ~……もう私と同じペースで走れてますね、秋津さん」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……そう、ですね……」

 ランニングを終える頃になると、相変わらず息は上がってしまうが、それを落ち着かせるための時間は短くなっている気がする。それだけ心肺機能が上がってきているということなんだろう。
 真琴さんに近付くためだけに始めたことだが、成果が出ているぶんには悪い気がしない。正直、体を動かすことも気持ちよくなってきているし。

(でもどうせ体を動かすなら、もっと別の方法がいいよな)

 最近は風俗通いも止めて、こちらに集中しているのだ。俺としても色々と溜まっているものがある。

「……じゃあ、そろそろ柔軟体操をしましょうか?」
「あ、はい。よろしくお願いします」

 俺の呼吸が落ち着くのを見計らって、真琴さんがそう言ってくる。しかし柔軟体操って具体的にはどうするんだろうな。
 いつもランニングの前には、軽くストレッチしているのだが。

「柔軟体操って、いつものストレッチとは違うんですか?」
「あれは怪我をしないようにするのが目的なんですよね。柔軟体操はそこからさらに、関節の可動域を広げたりとか……まあ、とにかくやってみましょうか」
「そうですね」

 実際に体で覚えた方が早いだろうと、真琴さんから指示される。言葉で説明するより、体を動かして教える方が合っているんだろうな。

「じゃあ、まずは私が背中を押しますから、座ったまま前屈してみましょうか」
「こうですかね……うぐぐ……」

 座った状態で背中を押してもらって、爪先の方へと必死に手を伸ばす。

「本当に固いですねー……よいしょっと」
「うおっ……!」

 俺が勢いをつけるタイミングで、真琴さんが体重を乗せて背中を押してくる。思っていたよりもダイナミックだな。
 しかも勢いを付けて押してくるせいか、その大きな胸が俺の背中に押し付けられる。

(お……これは……!)

 わざと押し付けているんじゃないかと思うくらい、その感触が背中にしっかりと伝わってくる。

「んしょ……最初はこれくらいですかねー」
「そ、そうですか……ぅぐ……」

 体の固さを痛感しつつ、意識のほとんどは背中に向けていた。

(服の上からでも大きいのはわかってたけど、実際に体に触れてみると……凄いな)

 俺の背中で押し潰される胸を想像すると、たまらなく興奮してくる。柔軟体操の苦しさなんて気にならないくらい、その感触は心地よかった。
 当然、そんな感触を味わっていれば、俺の体もしっかりと反応してくる。

(……ちょっと気付かせてみるか)

 走っている最中も、チラチラと俺の股間を見てくるぐらいだ、全く興味がないということもないだろう。

「もう少し強く押しましょうか?」
「えっと……その、できれば……もう少し体を離してもらえると……」
「え……? あっ……」

 勃起して膨らんだ股間が視界に入るようにしてやると、それに気付いた真琴さんの顔が赤く染まる。そして慌てた様子で体を離し、俺の方から顔を背けはしたが、横目でチラチラと股間を盗み見ていた。

「そ、その……私……」
「すみません……ちょっとトイレに……」

 申し訳ないという態度を見せつつ、俺は自分で処理することを匂わせた。果たして真琴さんは、どんな反応を見せるだろう。

「っ……あ、あのっ……私の、せいで……その……」
「いえ、真琴さんが悪いわけじゃ……でも、このままだと続けられませんから」
「そ、そうですよね…………あの……そのままだと、辛いでしょうし……わ……私で良かったら、その……お手伝いを……」

 さらに顔を赤くさせて、真琴さんの方からそう切り出してきた。

(よし!)

 内心でガッツポーズしながら、俺も一応は遠慮してみる。もちろん期待しているという素振りを匂わせながらだ。

「い、いえっ……そんな……武村の奥さんに、そんなことは……! でも……いや……」
「手……手でするだけなら、別に……」
「手で……じゃ、じゃあ……その、真琴さんさえ嫌でなければ……」

 いきなりセックスやフェラチオというわけにもいかないか。最初の一歩としては、手コキでも十分かもしれない。
 何よりもまずは性的な関係を持ったという事実が必要なのだ。

「え、ええ……」
「すみません……」

 俺は立ち上がって勃起したチンポを取り出し、真琴さんの目の前に突き出す。

「っ……す、すご……」

 ガチガチにフル勃起したそれを見て、少しだけ目を丸くさせる。武村のと比べているんだろうか。

「彼女と別れてから、ずっとしてなかったもので……」
「そ、そうなんですね……ゴク……」

 明らかに生唾を飲んだ音が聞こえた。俺のチンポを見つめる視線も、熱を帯びているのがわかる。

「あの、そんなに見つめられると流石に……」
「あっ……ご、ごめんなさい! えっと、じゃあ……手……手で……」
「はい、よろしくお願いします」

 真琴さんの手が根元の方へと伸びてきて、指先が軽く触れた瞬間、慌てて手を引きかけた。しかし、おずおずと再び指先が触れると、その感触を確かめているかのように、根元部分に指先が絡む。

「か……硬い……」
「え? どうかしましたか?」
「い、いえっ……あの……し、しますね……」

 聞こえなかったフリをしたが、本当はしっかりと聞いていた。何気ないつぶやきだったが、その声音には実感と興奮が滲んでいたのを、俺は聞き逃さない。
 そして真琴さんは頬を赤らめながら、ゆっくりと俺のチンポを扱いていった。

「……ど、どうですか?」
「凄く良いですよ、これならすぐに収まりそうだ」
「そうですか……」

 最初は少し躊躇いがちだった手の動きも、徐々に慣れた感じになってくる。人妻なんだから俺が期待しているのも、初々しさではなくその技巧だ。

(武村とのセックスは上手くいってないみたいだが、なかなか手馴れてるな)

 俺のチンポを見つめる熱を帯びた視線からも、セックスそのものは好きそうだ。

「おお……いい、気持ちいいなぁ……」
「っ……」

 軽く声を出して煽ってみると、ビクッとその肩が小さく震えた。しかし手を離したりすることはなく、逆に少し勢いが乗ってくる。ちゃんと俺を射精へと導くような、そんな手の動かし方だった。

「はー……はー……ぅ……」

 陰茎を小気味よく扱き上げつつ、指先が張り詰めた亀頭を刺激してくる。恥じらうようだった表情も、明らかに興奮の方が勝ってきているようだ。
 鈴口から滲むカウパーもしっかりと指で塗り拡げて、刺激を高めてきてくれている。









「上手ですね、真琴さん」
「え……わ、私っ……その……うぅ……」

 どうやら手コキに夢中になっていたようだ。俺がそう声をかけると、少し我に返って顔が真っ赤になる。

「もう少しで出そうなんで、このまま続けてください」
「……はい」

 そんな真琴さんを促して、手コキを続けさせる。射精が近いと伝えたせいか、手の動かし方もより激しさを増してきた。
 熱っぽく俺のチンポを見つめながら、一生懸命に手を動かし続ける。少し呼吸も弾んできて、興奮している様子が手に取るようにわかった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 真琴さんは自覚していないかもしれないが、口元も僅かに緩んできている。俺への手コキに夢中になっている証拠だろう。

(そろそろいいか……)

 手コキで満足するのが目的ではなく、真琴さんに手コキをさせたという実績を作ることが目的なのだ。

「……そろそろ出しますよ」
「え、あ、はいっ……」

 十分に高まったところで射精を伝え、真琴さんが少し驚いて我に返ったところで、思い切りぶちまけた。

「くぅっ……!」
「きゃっ……! んんっ……!」

 勢いよく出した精液が、真琴さんの胸元から顔へと降り注ぐ。一瞬だけ驚いたような表情を見せたものの、力強く脈打つチンポを最後まで離すことなく、真琴さんはそれをうっとりと受け止めていた。

「はぁ……はぁ……これでスッキリしました……?」
「ええ、ありがとうございます」
「そうですか……」

 やり遂げたという満足感と、何か残念そうな響きの声だ。どうやら俺に手コキしたことで、少なからず興奮を煽られているんだろう。
 今日のところはこれで満足しておくか、それとも一気に押すべきなのか。手堅くいくならまた次の機会を待つ方が良いだろうが、これだけ順調に思惑通りに運んでいると、勝負してみたくなる。

「……じゃあ、次は俺がお礼しますよ」
「え?」
「真琴さんも気持ちよくなってください」
「えっ、えぇっ!?」

 本気で嫌がるようだったら、軽い冗談だということで誤魔化そう。そう思いながら真琴さんを軽く押し倒し、脚を大きく開かせる。抵抗されるかもしれないと思ったが、困惑の方が強いのか、顔を赤くしているだけだ。その隙にスパッツの上から股間を愛撫していく。

「んんっ……そ、そんな……! ダメです、秋津さん……!」
「まあまあ、良いじゃないですか。それに真琴さんだって、こんなに火照ってるじゃないですか。大丈夫、任せてください」
「でも、こんな……! ああっ……!」

 この火照りはランニングによるものとは思えない。俺のチンポの感触や精液の匂いに、発情しているんだろう。
 そのままスパッツの上から吸いつき、強引に舐めしゃぶってやる。

「ぢゅるるっ……!」
「んくぅ……! あ、ああっ……こ、困りますっ……こんな……!」

 困惑の声を上げてはいても、強く抵抗しようとはしない。

「俺にされるのが困るなら、一緒にしませんか? ほら、まだ収まらないんですよ」

 さっきまで真琴さんが手コキしていたチンポは、一度の射精では満たされることなく、まだしっかりと勃起したままだった。

「ま、まだ……そんなに……」
「シックスナインってわかりますよね? 一緒に気持ちよくなりましょう、真琴さん」

 戸惑いと興奮の中で混乱している真琴さんを、強引にシックスナインへと誘い込む。躊躇っていようがお構いなしだ。
 スパッツも股間の部分を引き裂いてやり、火照ったオマンコを露出させてやる。案の定そこはもう既に、しっかりとした潤いを見せていた。

「ああ、ダメですっ……あ、秋津さん……!」
「ここまで来たら、もう止められないですよ。ほら……」
「あっ……」

 真琴さんを俺の体の上に乗せるようにして、強引にシックスナインの体勢へと持ち込んだ。
 まだ躊躇い続ける真琴さんだったが、改めて俺の勃起したチンポを目の前に突き付けられると、そのまま黙り込んでしまう。
 一緒に気持ち良くなることよりも、そのチンポに対する興味が拭い切れない様子だ。

「綺麗なオマンコですね。ぢゅるる、ちゅぅ……」
「んんぅっ……! あ、ああっ……くふっ……!」
「真琴さんもしてください。早く鎮めないと、終われませんから」
「うぅ……わ、わかりました……ちゅ……ねぶ、ちゅる……」

 少し急かすように促すと、真琴さんも覚悟を決めたように舌を伸ばしてくる。初めのうちはおずおずと探るような感じだったが、手コキの時と同じようにすぐに調子に乗ってくる。









「ねぶ、ちゅる……ん……ちゅ、ちゅ……れろ、れろぉ……」
「ああ、気持ちいい……手コキだけじゃなくて、フェラも上手なんですね」
「うぅ、そんな……でも、こんなに……ぅ……ちゅる……ねぶ、ちゅ……くりゅぅ」

 付着していた精液やカウパーを舐め取り、代わりに亀頭を唾液で濡らしていく。
 俺もそれに負けじと舌を動かし、クリトリスや膣口の周囲を舐めていった。

「ぅんっ、んんっ……! ちゅ、ちゅぶ……ねぶねぶ、ちゅるっ……!」

 すると真琴さんのフェラチオにもさらに熱がこもってくる。どうやらクンニされて感じてきたせいか、段々とその気になってきてるのかもしれない。
 盗聴している感じだと夫婦間の仲は悪くないようだったが、真琴さんは真琴さんで溜め込んでいるものがあるのかもしれないな。

(武村とのセックスの相性が悪くて、性的な欲求不満が溜まっているとかな……)

 そんな感じはしていたが、間違いないのかもしれない。

「ちゅる、んちゅっ……ちゅっ、ちゅっ……んんっ、ねぶ、ちゅる……れろ、れろ」

 フェラチオも俺に求められて仕方なくという感じで始めたが、もうすっかり自分の意志で唇や舌が動いている。
 まだまだ油断するわけにはいかないが、一気にシックスナインまで持ち込めたのは大きいのかもしれない。

「気持ち良いですよ、真琴さん……もっと強くしゃぶってください」
「は、はい……はむ、んん……ぢゅ……るぅ……ぢゅぶっ……ぢゅぶぢゅぶ……!」

 俺がしゃぶるように要求すると、戸惑いつつもそれに応えてくる。舐めてやっているオマンコも、明らかに唾液以外の体液で濡れて光っていた。

「真琴さんも感じてますか? して欲しいことがあったら言ってください」
「んん、むぐぅ……ぢゅる、ぢゅぶっ……ずぢゅっ……んっ、んっ、んっ、んんっ!」

 俺の言葉には何も答えず代わりにペニスへと強く吸いついてくる。まるでこのまま気持ち良くして欲しいと、そう訴えかけてきているようだ。

(よし、だったら……!)









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